転職は「この指とまれ」で決まる プロ経営者・松本氏カルビー元会長 松本晃氏

まあ、後から冷静に考えれば、たいして高いものでもありません。でも家族全員が大喜びして、その笑顔を見て決めたんです。まさに「将を射んと欲すれば、まず馬を射よ」です。それで年明けからJ&Jで働き始めました。

失敗しない会社選び、基準は「価値観」

転職にあたって、以前の職場にはきちんと仁義を切ったつもりでしたが、あつれきは相当ありました。伊藤忠は大会社なので比較的おおらかでしたが、直接競合するセンチュリーメディカルからは訴えを起こされました。結局、裁判所の判断で訴えは退けられましたが。僕にしてみれば、ライバル会社に転職されて困るくらいなら、もうちょっと待遇をよくしてくれればよかった。正直、そういう思いはありました。

J&Jへの転職は、結果的に大成功でした。今思えば、クレドに集約されている会社としてのビジョンが自分にぴったり合っていたのだと思います。たとえば、医療品や食品を扱うJ&Jは社会的責任も大きい。それが、ちゃんとクレドに盛り込まれている。僕も、センチュリーメディカル時代に医療事業の社会性を十分わかっていたので、共感が大きかったんです。

昔も今も、転職で一番大事なのは、転職先の会社のビジョンが自分の価値観に合っているかどうかだと思いますね。日本の会社は、ビジョンを明瞭にしないところが多い。それでは、転職するほうも正しい判断ができません。会社が有名だとか、テレビコマーシャルを流しているとか、給料がちょっと高いとか、本社が大手町にあるとか、それくらいしか判断材料がないんじゃありませんか。

だから、よさそうな会社だと思って入ってみたら、自分の価値観と違うことに気づく。せっかく入った会社を簡単に辞めてしまう。それは本人にとっても会社にとっても不幸です。でも、それは辞めるほうが悪いんじゃなくて、ビジョンを示さない会社が悪い。僕はそう思いますね。

ビジョンというのは、わかりやすく表現すれば、「この指とまれ」です。うちの会社はこういう理念の会社です。同意するならぜひ来てください。一緒にやっていきましょう。そうみんなに呼び掛けるのがビジョンです。J&Jでは、まさにクレドが「この指とまれ」の役割を果たしていました。

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松本晃
1947年京都府生まれ。京都大学大学院修了後、伊藤忠商事入社。93年にジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)日本法人に転じて社長などを歴任した。2009年にカルビーの会長兼最高経営責任者(CEO)に就任。停滞感のあった同社を成長企業に変え、経営手腕が注目されるようになった。11年には東証1部上場を果たし、同社を名実ともに同族経営会社から脱皮させた。18年に新興企業のRIZAPグループに転じ、1年間構造改革を進めたのも話題に。

(ライター 猪瀬聖)

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