メンタル不調から抜け出す 有効なサードプレースとは『部下の心が折れる前に読む本』 刀禰真之介氏

職場にもメンタル不調を発見する手がかりがある。周囲も気づきやすいのは、勤怠の乱れ。やたらと会議に遅刻するようになったとか、大事な資料を忘れる、打ち合わせ時刻を間違えたなどは、「うっかりミス」と見過ごされがちだが、「重要な目印にもなり得る」(刀禰氏)。以前よりも有給休暇を使って頻繁に休むようになった場合でも、不調が原因のケースがある。旅行や用事での休みは気にするには及ばないが、特段の理由がないのに「朝がきつい」「会社に行きたくない」といった場合は、ストレスの影響が懸念される。

メンタル不調が原因となって長期休暇に入るような場合、周囲は「全く兆しがなかった」と感じることも多い。しかし、「必ずしもある日突然、不調に陥るのではなく、相当程度の積み重ねであるほうが多い」と、刀禰氏はたくさんの実例を踏まえて指摘する。つまり、もっと早い段階で気づき得た可能性があり、「発見・対処が早いほうがリカバリーに要する時間が短くて済む」(刀禰氏)。先に挙げたような気づきポイントを日ごろからウオッチしておけば、自分自身で不調を発見しやすくなる。

情報の増加と業務の高度化が背景

刀禰真之介氏

情報が増え、業務が高度化したことがメンタル不調を引き起こす背景にあると、刀禰氏は見抜く。とりわけ、プレイングマネジャーの立場は、求められる要求水準が高く、追い詰められてしまいがちだという。配置転換や転勤、兼務など、仕事の中身や勤務の形態が変わることも、精神的なバランスを損ねてしまうきっかけになり得る。勤め先そのものが変わる転職はプレッシャーも大きい。転職先で早々に結果を出さなければという気持ちが自分を追い込むケースもあり、「年齢を重ねてからの転職では適応能力を十分に見極めておきたい」(刀禰氏)。

ストレスチェックが企業に導入され、パワーハラスメントが禁じられるなど、制度面での対応は段階的に進んできた。しかし、「一番の問題点は経営者にある。根性論を説くトップは少なくない」と刀禰氏は感じている。エグゼクティブ層は大半が出世レースの勝者であり、苦しい時期は自分で乗り切ってきたという成功体験の持ち主。メンタル不調に悩む部下や後輩に共感しにくい精神風土を持つ。「勝ち続けてきた経営トップ層が弱者の立場を理解できないと、働きやすい職場環境が生まれにくい」。社風が変わるまでには時間がかかるなら、働く側は自衛策を講じるしかない。

自衛策の柱に期待されるのは、産業医の存在だ。勤め先の言いなりにならない第三者的な産業医からは、専門家の立場からアドバイスをもらえる。しかし、ここで問題になるのは、産業医の立ち位置だ。患者から得た情報を、本人の了解を得ずに勤め先に伝える行為は禁じられているが、患者側からすれば、その「ファイアウオール」の確かさが気になる。「心理的安全性を確保するうえで、プライバシーの保護は大前提」と、刀禰氏は産業医に確実な守秘を求める。ただ、患者側からはこの守秘レベルを確かめる手立てがない以上、情報開示をためらう気持ちを払拭しにくい。

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