メンタル不調から抜け出す 有効なサードプレースとは『部下の心が折れる前に読む本』 刀禰真之介氏

逃げ場としての「サードプレース」

 上司や同僚は、仕事の事情を理解しているだけに、本来は相談相手に向く。だが、誤解される心配があるのに加え、情報漏れの懸念もあり、よほどの信頼関係がないと洗いざらい打ち明ける気にはなれない。「複数の相談相手がいるほうが様々な意見をもらえる点で好ましい」という刀禰氏がすすめるのは、勤め先でも家庭でもない「サードプレース(第3の場所)」。たとえば、趣味の仲間がそれにあたる。高校や大学の同級生、クラブ仲間などもサードプレースの候補になる。行きつけのバーに集まる常連同士といった、「居場所つながり」も役に立つ。

 相談や打ち明け話の環境としてサードプレースが優れているのは、利害関係が薄く、話した結果ダメージを受ける可能性が低いからだ。心理的安全性は高い。上司の場合、人事考課に跳ね返る心配がつきまとう。家族そのものが原因の場合、当の家族には本音を言いづらくなる。その点、趣味仲間や級友はつきあいが長いおかげで、事情を読み取ってもらいやすいうえ「情報を悪用され、ダメージを受ける心配をせずに済む」(刀禰氏)。

 仕事と家族とプライベートがメンタル不調の3大原因と、刀禰氏は位置づける。どれか1要素が崩れても、残り2要素が保たれていれば、精神の安定を維持しやすいが、「2要素以上が同時に崩れると、持ちこたえにくい状況に向かいやすい」。その意味から言えば、プライベートの時間を大事にするのは、単なる息抜きにとどまらない意味を持つ。「逃げ場があれば、3大要素が総崩れになるのを防げる」

ストレスを和らげる「ガス抜き」が大事

 プライベートの領域には趣味やスポーツ、旅行、美術鑑賞、読書、ゲームなど、様々な選択肢がある。「単に散歩するだけでも構わない。趣味に打ち込むという意識を持つ必要はない」。刀禰氏がすすめるのは、過ごし方の複線化だ。「いっぱいあるほうが逃げ場にしやすい。仲間の顔ぶれも広がる」。自身もテニスやヨガ、サウナなど、複数の過ごし方を楽しんでいるという。ボランティアや社会貢献への参加は、職場とは別の人付き合いを広げてくれる。

 仕事熱心な人はプライベートの時間にもビジネス書を読んだり、英語学習に打ち込んだりする。しかし、仕事、家庭と並ぶ第3の要素と考えれば、あまり仕事寄りの過ごし方は、バランス面で好ましくない。「大事にしたいのは、ストレスを和らげる『ガス抜き』。ただでさえ情報が多すぎてストレスを感じやすいのに、プライベートの時間にまで学びや仕事感覚を持ち込むのは、『情報疲れ』を起こしやすい」だという。

 勤め先に関係のない、同世代の知り合いは、健康や仕事の面で立場が近く、「悩みを共有しやすい」(刀禰氏)。人生経験の豊かな仲間からはメンター的な助言も期待できる。互いの「ガス抜き」を通して間柄を深めていけば、家族にも言えない秘密を打ち明けられる、貴重なサードプレースになり得る。メンタルの健康を相互にサポートする意味合いも含めて、大学や高校の旧友と絆をつなぎ直してもいいだろう。新たな趣味や遊びを通して仲間の輪を広げるのは、メンタルヘルスを整えることにとどまらないよろこびにもつながるはずだ。

刀禰真之介
メンタルヘルステクノロジーズ代表取締役、Avenir代表取締役。1979年神奈川県生まれ。明治大学政治経済学部を卒業後、 デロイトトーマツコンサルティング(現・アビームコンサルティング)、UFJつばさ証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)、環境エネルギー投資などに勤務。社会問題を解決できるような事業に取り組みたいと、起業を志し、2011年にメンタルヘルステクノロジーズとAvenirを設立。

部下の心が折れる前に読む本 「社員がやめない会社」をつくる5つのステップ

著者 : 刀禰 真之介
出版 : 幻冬舎
価格 : 1,540円 (税込み)

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