神殿・トンネル・鉱山 探検が楽しい地下空間10選
そこに、どんな世界が広がっているのか。地下空間に潜るときは、探検気分が味わえる。学べ、触れられる魅惑のスポットを、専門家が選んだ。
1位 首都圏外郭放水路(埼玉県春日部市)
水害防止に一役「地下神殿」
首都圏の治水対策の一つとして設けられた地底50メートルを貫く6キロメートルの地下放水路。大雨で中小の川が洪水になりそうなとき、水を江戸川へ流し被害を軽減する役割がある。雨水は深さ70メートルの5本の円筒形の立て坑をつなぐ地下トンネルを通り、調圧水槽で勢いを弱めて放水される。水槽は高さ18メートル、重さ500トンの59本の柱が天井を支える姿から「地下神殿」と呼ばれる。
10月の台風19号で浸水被害を大幅に軽減した。「首都圏を守るにはこれほど巨大な防災施設が必要と認識させられる」(竹内秀一さん)。「スケール感や見栄えだけでなく生活を守る施設の意義を知り、日本の土木技術の粋や土木の価値を知るきっかけになる」(河野まゆ子さん)
調圧水槽のほか、立て坑の体験、江戸川へ水を排出するポンプ室の見学など「3コースから選べるのが魅力」(前畑温子さん)。
(1)大人料金 地下神殿コース 1000円など(2)問い合わせ先 https://www.gaikaku.jp(首都圏外郭放水路見学会受付)
2位 大谷石地下採掘場跡(宇都宮市)
地底湖クルーズ満喫
大谷資料館の階段を下りて行くと、広さ2万平方メートル、深さ30メートルに及ぶ地下空間が広がる。大谷石は大谷町付近一帯から採掘された軽くて加工しやすい石で旧帝国ホテルで使われたことで有名。「約70年にわたる採掘でできた地下空間の巨大さは圧巻。人間の営みのすごさが感じられる」(竹内さん)
天井の高さの違いや階段の段差で神殿のようにも見える。「大谷石の岩肌とそこに反射する光が幻想的」(小泉隆さん)。コンサートや映画スタジオとしても利用されている。資料館では江戸時代からの石の採掘法や輸送法の変遷も紹介する。
大谷石は大谷町付近一帯から採掘され、採掘場は地下でつながる。「地底部分を結ぶ『大谷アンダーグラウンド』ツアーで地底湖クルーズも楽しめる」(河野さん)。天井の低い場所は身をかがめるなどしてボートで進むクルーズは基本コースで8500円。申し込みは地元の旅行会社、えにしトラベル(要予約)。
(1)大谷資料館 800円(2)電話028・652・1232
3位 青函トンネル(青森県今別町・北海道知内町)
ケーブルカーで坑道へ
本州と北海道を結ぶ世界最長の海底トンネルで2018年、開業30周年を迎えた。「世紀の大事業」の全貌を紹介する青函トンネル記念館は本州側の青森県と北海道の2カ所にある。青森県外ケ浜町にある記念館では青函トンネルの作業坑道へ行く体験ができる。海面下140メートルへケーブルカー(乗車券1000円)で約8分。一角には実際に作業で使われた機械が展示され、過酷な作業環境を追体験も。「映画『海峡』の舞台となり、土木技術者・トンネル技術者のロマンを感じさせる」(木谷努さん)
事業の構想から完成までを立体模型や音・映像などで紹介するほか、少し離れた場所には慰霊碑がある。「北海道に新幹線の希望をもたらすと同時に多くのドラマがあったことを知ってほしい」(清木隆文さん)。
北海道福島町にある記念館では工事記録やトンネル工事で岩盤を切り刻んだ機械などを展示する。
(1)青森県側の記念館は冬季休館中で2020年4月18日から開館。北海道側の記念館は19年12月1日~20年3月16日まで休館。 両館とも400円(2)青森側電話0174・38・2301 北海道側 電話0139・47・3020
4位 スーパーカミオカンデ(岐阜県飛騨市)
見学年2回、レアチケット
世界有数の素粒子物理学の研究施設。その観測データから多くのノーベル物理学賞が生まれた。鉱山跡の地下1000メートルにある観測装置は5万トンの純水をたたえ、宇宙から降り注ぐ素粒子を検出する。「未開の地下と宇宙を結ぶという意味で人類のロマンを感じる」(木谷さん)
見学会は毎年夏と秋に2回。普段は入れない鉱山の坑内や機器が並んだ地下研究施設を見られるほか、素粒子ニュートリノについての展示がある。「抽選倍率も高いレアチケット。行きたくてたまらない」(河野さん)
(1)2日に実施した見学会は3500円(2)飛騨市役所HPで定期的に見学者募集 https://www.city.hida.gifu.jp/soshiki/47/
5位 東京湾アクアライントンネル(川崎市・千葉県木更津市)
帰りの体力に覚悟
東京湾を横断する高速道路「東京湾アクアライン」は総延長約15キロで10キロのトンネルと5キロの橋。見学ツアーは海に浮かぶ人工島「海ほたる」から出発する。普段は入れない海中トンネルの真下まで歩き、帰りは階段を上って帰るので、覚悟が必要だ。
海底トンネルは当時世界最大の外径約14メートルのシールドマシンで掘削。海ほたるに展示されており、「円の直径にビックリしてほしい」(鎌尾彰司さん)。「ツアーでは土木工学的な価値に加え、トンネル災害に備えた対策も知ることができ、社会勉強になる」(竹内さん)
(1)1000円(2)電話0438・97・5269(東京湾アクアライン探検事務局)
6位 佐渡金山跡(新潟県佐渡市)
ゴールドラッシュ追体験
江戸時代は徳川幕府直轄の天領として幕府の財政を支え、1989年まで採掘が行われた。金鉱脈は東西3000メートル、南北600メートル、深さ800メートルに広がり、坑道の総延長は約400キロと言われる。「まさにアリの巣のよう。日本最大のゴールドラッシュを追体験できる」(横倉和子さん)
見学コースは江戸時代に掘られた「宗太夫(そうだゆう)坑」と、明治~平成時代の「道遊(どうゆう)坑」の2つ。「両方見学することで、江戸と近代の採掘作業の違いと進歩のさまがわかる」(竹内さん)。「鉱山における作業や生活、神事などのジオラマ展示が充実している」(小泉さん)
(1)各コースとも900円(2)電話0259・74・2389(ゴールデン佐渡)
7位 関電トンネル(富山県立山町・長野県大町市)
黒部ダム難工事の現場へ
「くろよん(黒部ダム・黒部川第四発電所)」建設の際に最大の難工事となったトンネル。当時は資材運搬用に使われたが、今は長野~富山県を様々な乗り物で乗り継ぐ「立山黒部アルペンルート」の一部で、電気バスが扇沢駅と黒部ダム駅を結ぶ。予約不要で乗り降りできる。
「難工事だった破砕帯(地下水をため込んだ軟弱な地層)を通る際、トンネル内が青い光で照らされる」(横倉さん)。「大自然の奥地でのダム建設やこの位置が選ばれた地質構造上の理由など興味深い。紅葉とトロッコだけではもったいない!」(河野さん)
(1)電気バス片道1570円(2)電話076・432・2819(立山黒部アルペンルート公式ガイド)
8位 石見銀山龍源寺間歩(島根県大田市)
採掘のノミ跡、岩肌が幻想的
石見銀山は2007年に世界遺産に登録された。銀鉱石を採掘する坑道を間歩(まぶ)といい、石見銀山には大小600カ所以上ある。龍源寺間歩はそのうち2番目に長く、遺跡の中で常時公開されている唯一の坑道跡。排水のために垂直に100メートル掘られた立て坑も見ることができる。
「日本が世界に誇った銀の産出地として歴史的価値が高く、採掘当時のノミの跡が残る。その岩肌は幻想的」(木谷さん)。近代の機械掘りの跡がすぐ隣にあり、時代による掘削方法の違いがわかる。「手掘りだったころの卓越した採掘技術に感嘆する」(横倉さん)
(1)410円(2)電話0854・89・0347(石見銀山龍源寺間歩案内)
9位 池島炭鉱跡(長崎市)
元炭鉱員がツアー案内
01年閉山の九州最後の炭鉱の島。今も人が住んでいるが、最盛期に建てられた集合住宅はほぼ空き屋で、同じ長崎市にある軍艦島のよう。軍艦島は歩行エリアが限定されるのに対し、自由に島内を巡れるのが魅力だ。
池島港集合、解散の炭鉱ツアーはトロッコで坑内に入る。元炭鉱員のスタッフが案内役で石炭採掘の仕組みを解説。別料金(要予約、900円)でかつて炭鉱員らが食べた炭鉱弁当が味わえる。「炭鉱施設だけではなく社宅跡も残り、当時の生活の様子が感じられる」(前畑さん)。「近代初期のコンクリート造の住宅群も見どころ」(小泉さん)
(1)2720円(2)電話095・811・0369(長崎さるく受付)
10位 足尾銅山跡(栃木県日光市)
公害問題の歴史知る遺産
かつて「日本一の鉱都」として日本の経済発展を支えたが、渡良瀬川の鉱毒事件や山林破壊を引き起こしたことでも知られる。鉱山跡を見学するツアーはトロッコで坑内に入り、地下は徒歩で進む。坑道では銅を含む岩肌が緑青色に変化して色鮮やかな箇所もあり、銅鉱山を実感。資料館では銅の精錬から利用までの工程を学べる。
「近代社会の公害の恐ろしさを理解しその歴史的位置づけを知る貴重な産業遺産」(西田幸夫さん)。「鉱毒で失われた豊かな自然環境を植林によって再生した。その歴史も知ることができる」(清木さん)
(1)830円(2)電話0288・93・3240(足尾銅山観光管理事務所)
環境や景観配慮 国内外で広がる
地下資源の掘削やトンネル、石油の貯蔵など人類は地下をさまざまに開発し、利用してきた。世界の最近の地下利用のトレンドは、環境保全を目的としたものだ。
例えば、米ボストンでは、都心部を走っていた高架の高速道路を地下に埋め、地上を公園にして人のにぎわいを取り戻した。中国の上海では鉄道交通網を地下に集めて環境保全に取り組む。
台風19号による被害で発電所に通じる道路が崩落し、ツアーが当面中止になっているため選外となったが、環境保全という視点で高評価だったのが神流川発電所(群馬県上野村)。「深い山中にあって、自然環境に最大限配慮している点が素晴らしい」と酒井喜市郎さん。発電所が地下500メートルにあり、地上に自然景観を損なう物がないからだ。
日本では地上の土地所有者が利用しない大深度の地下を公共目的に使うことが解禁され、神戸市では送水管が整備された。今後、都市再生の一助として地下の利用価値が見直されそうだ。
ランキングの見方 数字は専門家の評価を点数化。施設などの名称(所在地)。(1)施設や見学ツアーなどの大人料金(2)問い合わせ先電話番号やURL。写真は1~3位三浦秀行、ほかは各関連施設の運営者や自治体の提供。
調査の方法 地下空間に詳しい専門家の協力で国内の主要スポットを24カ所リストアップ。「建築・土木工学的に興味深い」「歴史的・社会的価値が高い」「観光・学習スポットとして優れている」の3つの観点から、専門家が1位から10位まで順位付けし、編集部で集計した。(木ノ内敏久)
今週の専門家 ▽鎌尾彰司(日本大学准教授)▽木谷努(パシフィックコンサルタンツ構造技術部・都市トンネル室長)▽小泉隆(九州産業大学教授)▽河野まゆ子(JTB総合研究所主席研究員)▽酒井喜市郎(鉄建土木本部副本部長)▽清木隆文(宇都宮大学准教授)▽竹内秀一(日本修学旅行協会理事長)▽西田幸夫(埼玉大学特任准教授)▽前畑温子(産業遺産写真家)▽横倉和子(日本旅行総研研究員)=敬称略、五十音順
[NIKKEIプラス1 2019年11月16日付]
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