過去の成功法通用しない ハーバードが見る日本の課題ハーバードビジネススクール名誉教授 ルイス・ウェルズ氏(下)

佐藤 日本の資本主義をどのように定義しますか。「日本の資本主義は社会主義に近い」という意見もあります。

ウェルズ 間違いなく日本は資本主義国です。その他の資本主義国よりも、国が経済に与える影響が大きかった時代もありましたが、「自由市場経済のもとで、民間企業が成長することによって、国も成長していく」モデルであることに変わりはありません。

重要なのは日本という国の「戦略」

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。

佐藤 経営大学院の教員が日本経済について教えるとき、アベノミクスに焦点を置くこともできると思います。にもかかわらず、なぜ「日本:奇跡の年月」が依然として人気を集めているのでしょうか。

ウェルズ もちろん、日本の経済停滞要因を分析する上で、金融政策に注目することもできるでしょうが、私は日本銀行の金利政策などにはそれほど興味がありません。それよりも重要なのは、日本という国の「戦略」です。金融政策だけが、日本の課題ではないと思います。

経営大学院の教員の中には、「日本:奇跡の年月」とアベノミクスについて書かれた教材を一緒に使っている教員もいます。もし今も私が教えていたら、そうしていたでしょう。なぜなら、「日本が、高度経済成長期の成功モデルを踏襲していることが、今日の経済停滞を招いていると思うか」というテーマで議論することができるからです。

私自身は、それが現代日本の経済停滞の主因だと思っています。日本に限らず、国家は「経路依存性」にとらわれる傾向があります。目の前によりよい政策があったとしても、これまでの政策を継続しようとするのです。過去に成功した戦略を変えるのは難しいですし、それが現在でもある程度うまくいっていたら、なおさら難しいですが、それにひきずられて変革を怠れば、国の経済は停滞します。

企業にも同じことがいえます。高度経済成長期の成功モデルを象徴しているのが、終身雇用制です。今もその制度を踏襲している日本企業は多いですが、これが果たして企業の成長にとってプラスとなっているのか。おそらくそうはなっていないでしょう。

佐藤 なぜ過去の成長モデルが通用しないのですか。

ウェルズ まず現代の国際社会において外国からの投資を排除することも、貿易保護政策をとることも物理的に不可能です。

さらに重要なのは、日本にはモデルとなる国がないことです。戦後、日本の成長戦略は「日本は欧米よりも遅れている」という前提で立てられました。日本には追いつくべき国がたくさんありました。アメリカを含め日本よりも進んでいた国が、「どの産業に投資をすれば経済が成長するか」を先に示してくれていましたから、それに従って、リソースを分配すればよかったのです。

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