ワインもダンスも読書の供 武蔵野プレイスの心地よさ
武蔵野プレイス
たくさんの書籍と本好きの人々が集まる書店やブックカフェ、図書館には、それぞれ独自の「表情」がある。今回紹介する個性的な「本の居場所」は、東京・武蔵野市で2011年にオープンした市民活動のための施設「武蔵野プレイス」だ。生涯学習や青少年活動などをサポートする多目的施設の中核に図書館機能を据えて、地域のにぎわい創出に一役買っている。
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ざわめきや足音が聞こえる空間
武蔵野プレイスはJR武蔵境駅前の公園に面している。白壁と楕円形のガラス窓の外観が、周囲の緑を背景に柔らかな雰囲気を醸し出す。施設のコンセプトは「サードプレイス(第3の居場所)」。家を第1の居場所、職場や学校を第2の居場所に見立てて、そこから離れてくつろぎや楽しさを得られる「場」を意味している。
地上4階地下2階の建造物は、目的にかなった設計思想とデザイン性が高く評価されて2016年建築学会賞(作品)を受賞した。ミーティングや趣味活動に使う多数の部屋には、視界を遮断する扉がない。各フロアには廊下もないので、隣同士の部屋が緩やかに数珠つなぎになっている感じだ。1階から4階までは吹き抜けの構造になっており、どこにいてもざわめきや足音が聞こえてくる。
公共図書館は一般に、書物を中心に映像・音楽などのコンテンツを集めて、閲覧や貸し出しを通じて市民に利用してもらう役割が重視される。ところが武蔵野プレイスは地域の「にぎわい創出」にも図書館が貢献している珍しいケースだ。2階の「こどもライブラリー」では、乳幼児から小学校高学年までを対象にした児童書を約4万冊そろえている。来訪した親子が同じフロアで本探しや読書を楽しめるように、住まいや料理など暮らし関連の書棚も配置した。子どもたちが靴を脱いで自由に本を読めるスペース「おはなしのへや」や授乳スペースなども併設している。
地下2階の「ティーンズスタジオ」にはダンスの練習もできる「パフォーマンススタジオ」や、楽器演奏のできる「サウンドスタジオ」がある。フロアの一画を占めるのが、芸術系や青少年向け図書を集めた「アート&ティーンズライブラリー」だ。ダンス好きや音楽好きの若い来館者に、本や雑誌にも親しんでもらえるようにとの狙いがある。
ワインを片手に読書を楽しむ
夕方から閉館時間の夜10時までにぎわいが絶えないのは、1階の「パークラウンジ」だ。一画を占める「マガジンラウンジ」には約600タイトルの雑誌と約30紙の新聞をそろえている。ジャズやクラシック音楽が流れる「カフェ」では、夕方5時以降ビールやワインも提供している。館内の本を持ち込むことができるので、くつろぎながら読書の時間を過ごす人も多い。地下1階の「メインライブラリー」だけは、静かな空間が確保されているので、読書や調べ物に没頭できる。
オープンから7年で利用者の総数は約1200万人に達した。18年は1日あたり約6500人が来館している。子どもからシニアまで幅広く利用されているのが特徴だ。最も多いのは10代で36.6%を占める。20代=8.4%、30代=11.5%、40代=12.2%、50代=11.5%、60代=7.6%、70代以上=10.7%と幅広い世代に満遍なく利用されている。また武蔵野市民の利用者が53.8%に対して、市外居住の利用者も46.2%いる。武蔵野市の「シティーブランド」を高めることにも一役買っているようだ。
0歳児から本に親しむ街づくり
武蔵野市は武蔵野プレイスに加えて、中央図書館、吉祥寺図書館の3つの図書館を設置している。3館の連携がうまく機能している結果、近隣市に比べて市民が図書館をより積極的に活用している。武蔵野市では人口1人当たりの貸出冊数が16.8冊だ。一方、西東京市は10.9冊、三鷹市、小金井市はそれぞれ9.0冊、7.6冊にとどまっている。
武蔵野市は都内で初めて「ブックスタート事業」を本格的に開始した自治体だ。赤ちゃんと一緒に絵本で楽しい時間を共有してもらうことを願って、0歳児健診と3歳児健診で保護者に対しおすすめ絵本を紹介してプレゼントしている。こうした施策が市民に浸透していることは、図書館貸し出しランキング(2019年8~10月)から垣間見ることができる。1位「マスカレード・ナイト」(東野圭吾)、2位「かがみの孤城」(辻村深月)、3位「蜜蜂と遠雷」(恩田陸)と上位こそエンターテインメント小説のベストセラーが並ぶが、4位に「だるまさんが」、10位に「だるまさんと」(いずれも、かがくいひろし)が入った。0歳から楽しめる絵本のベストセラー「だるまさんシリーズ」だ。大人が読んでもクスリと笑える愉快な一冊なので、自分のために借りた父親、母親も多いのかもしれない。
(若杉敏也)
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