BOSEとソニー 無線「ノイキャン」モデルを聴き比べ
「年の差30」最新AV機器探訪
外部の音を遮断し、どこでもクリアな音で音楽が聴けるノイズキャンセリング。機能自体は昔からあるが、ワイヤレスヘッドホンや完全無線イヤホンにも高性能なものが搭載されることが増えてきた。今回は、ノイキャン機能搭載モデルから、BOSEのヘッドホン「BOSE NOISE CANCELLING HEADPHONES 700」とソニーのイヤホン「WF-1000XM3」をピックアップ。ワイヤレスヘッドホンと完全ワイヤレスイヤホンの異種格闘戦で、平成生まれのライターと、昭和世代のオーディオビジュアル評論家が聴き比べた。
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小沼理(27歳のライター) 今回はBOSEの「BOSE NOISE CANCELLING HEADPHONES 700」(税込4万6750円)とソニーの「WF-1000XM3」(税込2万8468円)を比較します。
小原由夫(55歳のオーディオ・ビジュアル評論家) BOSEはワイヤレスヘッドホン、ソニーは左右のイヤホンをつなぐ線もない完全ワイヤレスイヤホンです。共通するのはどちらもノイズキャンセリング機能があることですね。
小沼 10月に発売されたばかりのApple「AirPods Pro」も、ノイズキャンセリング機能をウリにしていました。Appleが大々的に打ち出したことで、ノイズキャンセリング自体にも注目が集まりそうです。
小原 今回は最初にどちらが良かったか、お互いに言ってみましょうか。小沼さん、どうでした?
小沼 僕はソニーが良かったですね。
小原 僕はBOSEです。分かれましたね(笑)。
小沼 この連載では何度か完全ワイヤレスイヤホンの対決をしていますが、最初に取り上げたのもソニーとBOSEでした(記事「完全無線イヤホン対決 音質はBOSE、機能はソニー」)。それでは一つずつ見ていきましょう。
音作りとデザインが高評価のソニー
小原 ソニーはどんなところが良かったんですか?
小沼 ソニーのイヤホンは高音や低音が強調されたものが多い印象ですが、この「WF-1000XM3」はバランスがとれていると思いました。もう一つはデザインですね。派手ではありませんが洗練された見た目で、本体のタッチパネルでの操作がしやすいのも魅力でした。
小原 僕もこの「WF-1000XM3」はこれまでのソニーとはひと味違うと感じましたね。最近のソニーのイヤホンは、低音が強調されていて、EDMなどが主流の音楽シーンを強く意識している印象がありました。今回も多少は低音を盛っていましたが、それでもバランスが良かったです。音質以外のサイズや操作性などを見ても、総合的に完成度が高い完全ワイヤレスイヤホンだと思いました。
小沼 かなり高評価に思えますけど、それでもソニーを選ばなかったのはどうしてでしょう。
小原 ノイズキャンセリングが効きすぎるんですよ。外との断絶感があるというか。
小沼 僕も効き目が強いとは感じましたが、むしろプラス評価でした。歩きながら使うのは危ないですが、喫茶店など外で作業に集中したいとき、耳栓としても実力を発揮しそうです。タッチセンサーに触れているときだけ音楽の音量が下がる「クイックアテンションモード」、周囲の音を取り込んでくれる「外音取り込み機能」といった機能も使いやすいですし。
小原 たしかによく考えられた製品だと思います。ただ、どうもノイズキャンセリングがこれみよがしに感じられるんです。
ノイキャンが自然なBOSE
小沼 では、小原さんがBOSEを選んだ理由を聞かせてください。やっぱりノイズキャンセリングが決め手ですか。
小原 それもあります。BOSEのノイズキャンセリングはある程度周囲の音をカットしてくれるけど、完全に遮蔽された感じはしなくて自然でした。音についても、多少低音を盛っている気はしましたが、バランスが良い。ソニー以上だと思います。
小沼 BOSEのノイズキャンセリングは11段階。細かく調整できるので、自分に合わせたレベルで使うことができますね。音楽を一時的にオフにする「会話モード」という、ソニーの「クイックアテンションモード」と似た機能も搭載されているので、このあたりの使い勝手は同等と言えそうです。
小原 ただ、僕の世代は、人と話すときにはイヤホンやヘッドホンを耳から外しちゃうんですよ。完全ワイヤレスはそのときに落としそうになることがあるけど、今回のBOSEはヘッドホンなのでずらして首にかければいい。その使い勝手の良さも魅力でしたね。
小沼 完全ワイヤレスイヤホンが主流の中で久しぶりにヘッドホンを使うと、ファッション的にも新鮮でしたね。鏡に写した自分が、いつもと違って見えました。頭頂部に当たる部分がクッション素材で作られていたり、イヤーカップのフィット感が絶妙だったりと、つけ心地の良さも魅力でした。
小原 デザインも格好良いしね。アジャスターがイヤーカップにスライド式で収まるようになっていたりして。小沼さんもかなり気に入っているように見えますが、BOSEを選ばなかった理由は?
小沼 正直なところ、一番は価格です。やっぱり4万5000円を超えるヘッドホンはハードルが高い。完全ワイヤレスは3万円前後で十分なクオリティーのものが手に入ることを考えると、なかなか選ぼうと思わないですね。
防水機能はどちらも搭載せず
小原 ソニーのペアリングはどうでした? 僕が使った限りでは、混雑した駅でも安定していると感じましたが。
小沼 僕もストレスなく使えました。ラッシュ時の新宿駅では片耳だけ音が途切れることがありましたが、すぐ正常に戻ってくれました。Bluetoothの接続性能も日々進化していることを実感しますね。
小原 その他の機能はどうでしょう?
小沼 BOSEのバッテリー持続時間は最大20時間で、防水性能はありません。音声アシスタントはGoogleアシスタントとAmazon Alexaに対応しています。ソニーは本体6時間、充電ケース併用で最長24時間。こちらも防水性能はなく、音声アシスタントはGoogleアシスタントに対応しています。
小原 バッテリーは申し分ないですが、どちらも防水ではないんですね。
小沼 たしかに意外ですね。ヘッドホンのBOSEはともかく、ソニーはジムやランニングで使う人も多いと思うので、生活防水くらいは搭載してほしかったところです。
ヘッドホンか完全ワイヤレスイヤホンか
小原 小沼さんはオーバーヘッドホンを久しぶりに使ったようですが、完全ワイヤレスイヤホンと比較してどうでした?
小沼 先ほども少し話したように、ファッション的に新鮮で面白いなと思いました。フィット感も良いし、軽いので持ち運びにも便利だと思ったけど、毎日使うなら完全ワイヤレスイヤホンかなあ。
小原 それはやっぱり完全ワイヤレスイヤホンのほうが使い勝手が良いということ?
小沼 完全ワイヤレスイヤホンは装着しているのを忘れる自然さがあるので、もはや体の一部のような感覚で使っている気がします。一方、オーバーヘッドホンはぜいたく品という感じがしますね。
小原 僕はむしろ完全ワイヤレスイヤホンが体の一部になってしまうことに違和感があるんです。忘れてしまうことがかえって怖い。頭に載せるヘッドホンのほうが、付けている感じをずっとキープできる。とっさの際に、イヤホンだと落としてしまいそうですし。
小沼 8月にJR西日本がツイッターで「乗り降りの際、ワイヤレスイヤホンをしっかりお持ちください」という注意喚起のツイートをして話題になりましたが、実際に落とす人も多いんでしょうね。
小原 それと、ジャズやクラシックといったアコースティック系音楽を聴くことも多い僕としては、音場の広がりという点で、やはりヘッドホンの方が有利ですね。
評価は分かれたが2機種ともハイクオリティー
小沼 小原さんはBOSE、小沼はソニーを選んだ今回の対決ですが、改めて小原さんのBOSEの評価をきかせてもらっていいですか。
小原 ワイヤレスのオーバーヘッドタイプとしてはとても優れていると思います。外出時に使っても良いですし、自宅のリスニングルームで使うにも十分なクオリティーです。今はもう生産完了しているけど、JBLが「EVEREST ELITE」というワイヤレスヘッドホンを販売していて、これが僕のお気に入りだったんですよ。ユーザーの耳の形状に合わせて音をカスタムしてくれる、オートキャリブレーション機能付きのヘッドホンです。これに匹敵するとまでは言えませんが、それ以降では久しぶりに良いものが出てきたなと思いました。
小沼 ソニーはいかがでしたか?
小原 ノイズキャンセリングではBOSEに軍配をあげましたが、WF-1000XM3もよくできた製品だと思います。音質も、製品としての使い勝手も良いですしね。よく売れていると聞きますが、これだけのクオリティーで3万円以下なら、人気が高いのも納得です。
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ノイズキャンセリング機能を切り口に、約2年ぶりとなったソニーとBOSEの対決。小沼はソニーを選んだが価格次第ではBOSEも捨てがたく、BOSEを選んだ小原さんもソニーの総合力を高く評価する結果となった。ノイズキャンセリング機能で選ぶなら、パワフルなのがソニー、細かく調整できて自然なのがBOSEといったところ。音質や機能といったクオリティーは、両者ともに高レベルなので、ノイキャンのヘッドホン・イヤホンを探している人は好みや自分の使用するシーンに合わせて選んでみてはどうだろうか。
1964年生まれのオーディオ・ビジュアル評論家。自宅の30畳の視聴室に200インチのスクリーンを設置する一方で、6000枚以上のレコードを所持、アナログオーディオ再生にもこだわる。今回の試聴で使ったアルバムは「ACROSS THE STARS」(アンネ・ゾフィー・ムター&ジョン・ウィリアムス)など。
小沼理
1992年生まれのライター・編集者。最近はSpotifyのプレイリストで新しい音楽を探し、Apple Musicで気に入ったアーティストを聴く二刀流。今回の試聴で使ったアルバムは「Feel Special」(TWICE)など。
(写真 ヒロタコウキ=スタジオキャスパー)
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