「やらしい小説」息子に読ませて大丈夫?作家、石田衣良さん

NIKKEIプラス1

作家。東京都生まれ。2003年「4TEENフォーティーン」で直木賞。石田衣良のブックサロン「世界はフィクションでできている」主催(https://yakan-hiko.com/meeting/ishidaira/top.html)。
作家。東京都生まれ。2003年「4TEENフォーティーン」で直木賞。石田衣良のブックサロン「世界はフィクションでできている」主催(https://yakan-hiko.com/meeting/ishidaira/top.html)。

中学2年の息子は読書のため、私の書棚から本を持っていきます。ただ、なかには激しい性描写がある小説も交じっていて、それが息子の成長にどう作用するか心配です。このまま黙認していていいでしょうか。(東京都・40代・男性)

以前、学園ものの新聞連載のため、学校の先生に取材をしました。何人か集まってもらい、居酒屋の個室で教育現場の苦労話をしてもらったのです。そのときある区立中学の女性教師にいわれました。

「うちのクラスでは石田衣良さんの本が人気なんですよ。なぜかみんな2冊ずつ読んでいるみたいです」

初めて耳にする話でした。

「へえ、どの本とどの本ですか」

「1冊は『池袋ウエストゲートパーク』、それで……」

なるほどテレビドラマにもなったし、有名だから当然か。つぎの本に俄然(がぜん)興味が湧いてきました。若い先生はいたずらっぽい目でいいました。

「もう1冊は『娼年(しょうねん)』です」

「ほんとに! 驚いたなあ」

『娼年』は舞台・映画化もされた作品ですが、全編ほぼ大学生コールボーイのベッドシーンでできています。空虚だった青年が性を通じて成長し、生きる意味をつかんでいくというエロティックな青春小説なので、「激しい性描写」が欠かせません。ぼくは先生にいいました。

「それはみんな、なかなかセンスがいいですね」

そうなのです。ここではっきりいっておきましょう。エロスは人の進歩の原動力です。ビデオ録画機の発売当初、アダルトビデオを販促につけたら爆発的にヒットしたという伝説もあります。人は「やらしい」ものにあこがれて、つぎなる未知の世界に、足を踏みだしていくのです。

中学2年の息子さんの将来が心配ということですが、取り越し苦労です。親の本棚から本をもっていくだけでも、期待が膨らむではありませんか。中学生で読書の醍醐味を、すでに知っている。もう教育の半分は終わったも同然。一日の読書時間ゼロという半数近い大学生より、ずっと知的で見どころがあります。

息子さんの性的知識が増えるとしても、小説の性描写など実はかわいいもの。現代はパソコンやスマートフォンで、誰でもありとあらゆる性的な逸脱行為にアクセスできる時代です。小説の性描写ごときに目くじらを立てるなど、すでにナンセンスです。

「激しい性描写」を求めて図書館をうろついていた14歳のぼくは、その後なんとか更生し、立派?な小説家になれました。安心して好きな本を、自由に読ませてあげてください。

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[NIKKEIプラス1 2019年11月16日付]

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