夜勤の発がん性は除草剤並み 深夜サービスのリスク

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

夜勤は発がん性リスクを高めることがわかってきた(写真はイメージ=PIXTA)

私が医学部を卒業して研修医になったのは1987年、今から30年以上も前のことである。その当時は「働き方改革」などというありがたい話もなく、新入医局員は月の1/3から半分も当直に入らねばならないなど、かなり過酷な労働環境に置かれていた。特に年末年始がひどい。多くの病院が休日体制に入る12月28日の夜から始まり、年明けの1月4日の朝までまるまる1週間続けて当直をしながら数カ所の病院を渡り歩いたのを覚えている。

年末年始の当直業務も大変だったのだが、食事の楽しみがないのが若い身にはとても辛かった。当直医には患者さんと同じ病院食が出るが(加えてデザートなど1品程度おまけがつく)、3食すべて病院食で年を越すのはあまりにも侘しい。それに量が足りない。「病院近くのコンビニに買い出しにでも行けばいいのに」という声が聞こえてきそうだが、その当時はコンビニなるものがほとんどなかった。当然ながら、24時間営業のスーパーや飲食店もなく、要するに深夜に食事にありつく術がなかったのである。

私が働いていた秋田市にコンビニが初めて登場したのは1990年頃で、夜勤者が大量に詰めている大学病院前にできたコンビニが大盛況となったのは当然である。その後、各種フランチャイズのコンビニ、24時間営業のスーパー、牛丼やハンバーガーなどの外食店が雨後の筍(たけのこ)のごとく登場し、当直医の食環境は見違えるほど改善した(労働環境は相変わらずだが)。

前置きが長くなったが、夜勤者が夜勤者に支えられる構図に私自身もどっぷりと浸かっていたことを、お示ししたかった。医療、電力やガス、公共交通機関などの社会インフラの維持だけではなく、生活の利便性を高めるために深夜サービスを提供するようになり、夜勤者は増加の一途をたどっている。

労災を認定して金銭的補償を行った国も

厚生労働省が5年ごとに実施している労働安全衛生特別調査によれば、深夜業に従事している労働者割合は平成9年の13.3%から平成24年の21.8%(1200万人)まで一貫して増加している。平成29年度調査では深夜業従事者数のデータがなかったが、減少していることはなさそうだ。ちなみに、深夜勤とは午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては午後11時から午前6時まで)の間における労働のことを指している。

夜勤の心得5カ条とは 体内時計はそのままに」でも触れたが、夜勤がさまざまな疾患リスクを上昇させることはよく知られている。睡眠障害、狭心症や心筋梗塞などの循環器疾患、うつ病、肥満や糖尿病などの代謝障害、消化器障害など多数あるが、なんと言っても最近の話題は「がん」である。

夜勤が、幾つかのがんの罹患(りかん)リスクを高めることが疫学調査で繰り返し報告されている。例えば、夜勤に従事する女性では非従事者に比較して、乳がんの発症リスクが約1.5倍になる。そのため、2007年には、WHOの関連機関である国際がん研究機関(IARC)が「サーカディアンリズム(概日リズム)を乱す交代勤務」を発がん性リスクが2番目に高いグループ(2A:ヒトに対しておそらく発がん性がある暴露状況)に認定している。交代勤務とは夜勤と日勤を繰り返すなど業務時間帯をシフトさせながら働く勤務形態のことで、結果的に体内時計(概日リズム)と睡眠時間帯の間にズレ(内的脱同調と呼ぶ)が生じ、これががんを含めた心身の異常の原因になるとされている。