混迷の時代 本質見据えた長期投資が輝く(澤上篤人)さわかみ投信会長

日経マネー

草刈貴弘氏(左、撮影:竹井俊晴)

澤上 世界が不安定になればなるほど、資産を保全しつつ増やしていく運用姿勢が重みを増してくる。そこは、伝統的なプライベートバンキングの独壇場である。

その雄であるスイスのピクテ銀行日本代表を17年ほど務めた自分の経験は大きいよ。「いよいよ歴史の教訓や重みを知り尽くした己の力を存分に発揮できるぞ」と、腕をなでているところだ。なにしろ、ピクテ銀行はナポレオン戦争の頃から顧客資産の保全を第一とした運用を続けてきている。世界が不安定になるほど、いぶし銀のような輝きを見せ始めるのが本物のプライベートバンキングだよ。

草刈 ナポレオン戦争ですか。世界史と共に歩んできた銀行というわけですね。当時の世界は今とは比べ物にならないくらい不安定だったと思いますが、長い歴史を通じて培われた運用の考え方は、いつの時代にもいきるのでしょう。

先が見えない時に輝き増す長期投資

澤上 中国やインドの台頭もあり、世界の秩序は大きく変わりつつあるのかもしれない。とは言え、世界の第一人者を自他共に認める米国が、新しい秩序とやらへの移行を指をくわえたまま眺めているとも思えない。

草刈 実は中国も新しい秩序を望んでいるとは思えません。米国のような立場に立つのは相当な負担であることは明白です。国内をまとめるのさえ大変なのに、他国にまで口を出し、時には実力も行使しなきゃならない。よほど余力がないと無理でしょう。世界地図の塗り替えを本気でたくらむというのも、今の時代にはそぐわない気がします。その点はどう思いますか。

澤上 第1次世界大戦前夜と似ているかな。英国、フランス、ロシア、それにオーストリア、ハンガリーといった当時の大国は対外的なアクションを起こしたくなかった。それを見て、各地域で民族自決や独立の機運が高まり、あちこちで紛争が勃発した。そこへ新興勢力だったドイツ帝国が動き、大国もズルズルと巻き込まれていった。

今は地域紛争が激化しているような状況ではないし、中国は覇権を望んでいないかもしれないが、何が起こるかは分からない。マイナス利回りの債券に1800兆円ものマネーが流れ込んでいる異常な事態も、どこでどんな反動が襲ってくるか知れたものではない。

この先どうなるのか分からなくなればなるほど、経済の本質部分を見据えた長期投資が輝きを増す。というか、世界経済が大混乱に陥った時、われわれ長期投資家は平然としていられる。それどころか、皆が売り逃げに走っている中、本当に価値あるものをゴキゲンで買いに行けるのだ。

草刈 冷静に先を見据えて行動した者が勝つ。そういったプライベートバンク的な発想は、いつの時代にも通じるのですね。江戸時代から229年続く福島の酒造会社の9代目の方が言っていたことが思い出されます。「戦争がある、天変地異がある、大恐慌がある。この3つは覚悟しておけと先々代から教えられた」という言葉です。

澤上 何が起ころうが、人々の生活や、それを支える企業活動は最後まで残る。その企業を支えるのが長期投資の世界だよ。

澤上篤人
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立
草刈貴弘
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)

[日経マネー2019年12月号の記事を再構成]

これまでの「カリスマの直言」の記事はこちらからご覧ください。

日経マネー 2019年 12 月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP
価格 : 750円 (税込み)


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