働く女性、近畿から逃げる? 就業率低迷に経済界動く
京阪神を中心とする近畿圏は、高学歴女性の比率が国内で高い水準にある。ところが女性の就業率は全国平均より低い。人口の東京一極集中が進み、都市圏でありながら若い女性の流出も続く。女性の潜在力を引き出せない要因はどこにあるのか。大阪で取材する女性記者2人が、現状と課題に迫った。
「仕事と家庭を両立するのは東京よりハードルが高い」。大阪市の大手食品メーカーで営業職として働いていた女性(26)は2019年7月、結婚を機に退職した。取引先の地元中小企業は男性ばかり。休日出勤も珍しくなく、夫の帰りも遅かった。
上司から「仕事を続けられるようサポートする」と励まされたものの、「取引先や夫の働き方が変わらない限り、自分が仕事を続けるのは難しかった」と嘆く。滋賀県に住む義理の両親から「妻は家庭を支えてほしい」と職種変更を勧められたことも退職のきっかけになった。
近畿2府4県は京都大や大阪大をはじめ大学が多く、大学進学率も高い。文部科学省の16年度調査によると、女性の大学・短大進学率は東京(69.9%)に続き京都(68.8%)、兵庫、奈良、大阪と近畿の府県が上位5位に入った。一方で、女性就業率は低い。15年の国勢調査を基に甲南大学の前田正子教授が算出したところ、女性(25~44歳)の就業率は2府4県とも全国平均を下回った。
女性の流出も続く。総務省の統計「住民基本台帳人口移動報告」をみると、大阪府と滋賀県を除く近畿4府県で女性の転出者数が転入者数を上回った。15~19歳の女性は転入者数が転出者数より多いが、25~29歳で逆転する。
女性の働き方に詳しい前田教授は「近畿圏の産業構造や保守的な価値観の根強さが理由で、高学歴女性が流出している」と指摘する。住友グループの多くや伊藤忠商事など主要企業が東京に本社機能を移した結果、「高学歴女性に人気の事務系職種が関西で減った」(前田教授)。社会人1年目の為房愛子さん(23)は大阪大を卒業し、東京のIT企業に就職した。近畿圏での就職も念頭にあったが、「志望業界の企業は東京に多かった」と振り返る。
日本総合研究所の若林厚仁関西経済研究センター長は「関西で女性の就業が進まなければ産業が拡大せず、経済は成長しないだろう」と指摘する。働く女性が少ないと世帯収入が伸びず、域内の消費低迷も招きやすい。
地元の経済界や自治体はこうした状況に危機感を抱き、女性活躍の後押しに動き出した。12の自治体で構成する関西広域連合と関西経済連合会は17年、「関西女性活躍推進フォーラム」を設立した。20年2月までに女性活躍の新たな指数を作る。家庭での男女の役割の均等度や女性の活躍度合いなどを調べ、全国平均を基に域内8府県の指数を算出する。担当者は「女性の活躍度を、仕事と生活の両面で見える化し、対策づくりに生かしたい」と話す。
女性のキャリア支援事業をてがけるチェンジウェーブ(東京・港)は18年、関西で「エリアカレッジ」を始めた。10月のイベントにはアシックスやグンゼ、大和ハウスなど約10社の女性らが集まった。参加した野々川舞さんは「上司は男性が中心。理系職の女性リーダーの話を聞きたかった」と設計に携わる他社女性の話を熱心に聞いていた。
「きつい、汚い、危険」の3K職場といわれる業界でも変化が見られる。建設塗装の竹延(大阪市)は15年から、既婚女性の採用時の面接に夫の同席を求める。妻の仕事を知ってもらい、家庭との両立には夫の理解と協力が必要だと伝える。「女性が働くためには保育園の送迎など物理的サポートが欠かせないと説明する」(竹延幸雄社長)
高学歴女性が多い地の利を生かそうとする動きも出てきた。奈良県は17年から奈良女子大と連携し、女子大生の県内就職を支援する事業を実施する。女子大生にライフデザインを考える機会を提供したり、県内の中小企業を紹介したりする。
ただ、県内就職に至った事例は僅かだ。奈良県の女性就業率は近畿圏で最も低い。担当者は「都市部で働きたい県外出身学生の参加が多く、奈良県で働きたいという女子学生が少ない」と明かす。
大阪大は全国の大学や研究機関をつなぐ「全国ダイバーシティネットワーク組織」を18年に立ち上げた。約140団体が参加し、各大学の女性研究者育成に向けた取り組みや課題を共有する。
工藤真由美副学長は「大学が女子学生のキャリア教育に注力しても、地元に就職先がなければ人材は流出する」と指摘する。そこで阪大は共同研究で関係を築いた27社と協定を結び、人材の交流を進める。「人材育成で連携し、世界で活躍する女性を関西で増やしたい」と意気込む。
現場の声を吸い上げる仕組みを ~取材を終えて~
大阪を拠点に取材していると、女性活躍を推進する昨今の機運とは裏腹に旧来型のビジネス慣習に出合う場面が多い。取材先で白いスーツ姿の女性が出迎えてくれたり、お茶が蓋付きの湯のみで出されたりすることもある。制服姿の広報担当者も決して珍しくない。随所で感じた保守的な土地柄が、女性を取り巻く統計の数字にはっきり表れていたのには驚く。
女性活躍のために何をすればよいのかわからずに戸惑う社長や人事担当者も多いと耳にした。企業の規模や地域ごとに事情は異なる。女性活躍の掛け声だけが独り歩きすることなく、各企業が現場の声を吸い上げる仕組みをつくり、一つずつ解決する地道な努力が欠かせない。
(高橋彩、斎藤毬子)
関連記事として前田正子・甲南大教授のインタビューを日経電子版(有料)に掲載しています。
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