すてきな共演者と創り上げた『組曲虐殺』(井上芳雄)第56回

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。11月は『組曲虐殺』の地方公演で各地を回っています。10月に東京を終え、福岡、大阪、松本、富山、名古屋と公演が続いています。初演から10年を経て、3回目の小林多喜二を演じて、あらためて思うのは、お芝居をするうえで本当にたくさんのことを教えてくれる作品だということ。すてきな共演者の方たちから、いろんな刺激を受けています。

『組曲虐殺』は11月17日松本、11月22日富山、11月30日~12月1日名古屋で上演(写真は東京公演/左より、井上芳雄、上白石萌音/撮影:宮川舞子)写真提供:こまつ座/ホリプロ

『組曲虐殺』は井上ひさしさんの最期の戯曲です。昭和の初め、言論統制が激しくなるなかで、弾圧と闘い続けたプロレタリア文学の作家・小林多喜二は、特高警察による拷問を受けて29歳の若さで亡くなります。その最後の2年9カ月を描くお芝居です。凄惨な話ではなく、多喜二と愛すべき仲間たちとの心の交流を描く温かい話。笑える場面も多く、音楽劇なので出演者のそれぞれが歌う場面も多々あります。

その歌ひとつ取っても、せりふの声とほとんど同じ声で歌っているので、ミュージカルの歌い方とは違います。初演のころは、それがなかなかできませんでした。せりふにしてもいろんな言い方が考えられるから、どうやるのがベストかは難しくて、毎回手探りで演じています。お芝居をするうえで、いろんなことを教えてくれる作品です。 

前回までは、多喜二が拷問された後の写真を見たり、書いたものを読んだりして気持ちを作って臨み、公演が終わった後は、多喜二のことに思いをはせて、毎回のように泣いたりしていました。今回もそういう日がなくはなかったのですが、もっと多喜二との距離が縮まった気がします。舞台に行って、そのまま多喜二になれるという感覚です。それがいいのか悪いのかは分かりませんが、向き合い方はこれまでと全然違っています。

実は多喜二を演じるうえで、僕自身の解釈というのはそれほどありません。僕がどうしたいのかよりも、どういう作品で、演出家がどうやりたいか、一緒に演じている人たちが多喜二をどう感じているか、という方が重要だと思うから。