AI時代、人はどう生きるか 羽生九段に東大生が聞く

羽生 AIが奪う職業に弁護士も挙がりますが、私は人間がやらなければいけないことがあると思っています。AIは問題を解かせたらすごいけれど、正しい問題設定ができるわけではありません。法曹の世界でいえば、法律相談には法律上はどうにもならない相談もきますよね。でも、「法律ではどうにもならなくても、そこをなんとかしてほしい」という人間の気持ちの問題も存在する。

知らないからこそ将棋の世界に飛び込めた

小松 そうなんです。判決文をデータとしてAIに覚えさせるのは簡単です。しかし、実際に裁判官が判決文を書くまでには、検察官が起訴した理由や裁判官の判断の経緯など、いろいろなことがあって判決文ができあがる。そういう経緯をAIは把握できないので、人間との差はまだ大きいと思っています。

羽生 人間かAIか、どちらかだけになるのではなく、AIと人間がうまく分担していく制度ができれば、片方ずつでやるより精度が上がるはずです。人間が苦手なところと、AIの死角とか盲点を、お互いに補完し合う社会になるといいんじゃないかと思っています。

小松 AIネーティブな棋士がこれから増えたら、将棋界も変わりますか。

羽生 将棋の世界でも、最後は一人ひとりの個性がカギを握るのかなと思うことがあります。いま将棋を学んでいる小学生の世代は、AI将棋を使って強くなっていっています。この子たちが10年後に棋士になってどんな将棋を指すのか、とても興味深いです。同じような環境で同じソフトを使って研究したら、結局同じことしか覚えられない。結局はその人の独自性や個性みたいなものが勝負の分かれ目になるのかな。

小松 今は弁護士志望ですが、以前は競泳に打ち込んでいました。小学5年のときにわずかの差でジュニアオリンピック出場を逃すという悔しい経験をして、6年生で競泳をやめてしまったんです。羽生さんは15歳でプロになって以来、将棋一筋ですが、どう心を決めたのですか。

羽生 2年前に引退なさった加藤一二三先生は現役生活が67年でした。私はそれと比較するとやっと折り返し地点にたどり着いたくらい。その果てしない道の長さを感じることはありますが、あまり考えないようにしているんです。トライアスロンに挑もうとするときに、「これからマラソン40キロメートル、次は自転車100キロメートル」とか言われたら嫌じゃないですか。急にやる気がなくなっちゃいますから。だから、目の前の1キロメートルをがんばろうかな、とか。そういうふうに考えていかないと、ずっと長く続けていくのは難しいです。

小松 長い道のりは覚悟なさっていましたか。

羽生 わからないままだったからこの世界に飛び込めたという面はあるように思います。谷川浩司九段にあこがれて将棋の世界に入ったのですが、最初に抱いた夢とかあこがれと、実際に入ってからの景色は全然違いました。1段ずつ階段を上がっていかなければいけない険しさとか大変さを、何も知りませんでした。当時はインターネットもなく、どれくらい大変なのか、どんな努力が必要なのか情報がなかったからです。今はいろいろ調べられる時代ですが、競争が大変そうだとか10年くらいかかるらしいなんてことを先に知ってしまうと、前に踏み出せないということはあるのではないかなと思いますね。若い人の強みは、リスクがありそうでも、大胆な選択にみえても、可能性を信じて前に進んでいけることだと思っています。

(文・構成 藤原仁美)

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