キャリアプランの考え方も変わってきます。「ゼネラリストかスペシャリストか」という区分けがもはや意味をなさなくなると著者は指摘します。なぜなら、VUCAの時代はテクノロジーによる価値の創造が主流となるからです。テクノロジーが急速に、しかも「非連続」的に移り変わる環境では「変化への対応力」が武器になります。その資質を厳しく試されるのが、ベンチャービジネスの世界です。

(ベンチャー企業は)良くも悪くも、個々の能力がモノを言う世界でもあります。そこで求められるのは、圧倒的なスピード感と当事者意識です。やらなければならないことが山のようにあり、一つひとつの仕事が会社業績に直結しますので、スピード感とサバイバル競争が重要な要素でもあるのです。「即断・即決・即実行」とも言いますが、とかく動きが速いことがベンチャーの大きな特徴と言えるでしょう。これは、大手企業でキャリアを積んだ多くの人にとって、最初に感じるカルチャーショックになります。
(第1章 これからのビジネス界で生き残る者は誰か 78~79ページ)

ワークライフバランスと出世志向の両立

それでは新しい時代で「勝ち組」を目指すために、ビジネスパーソンが具体的に取り組みべきことは何でしょうか。著者は以下の7つの条件を列記します。ここで出てくる「アジリティ」とは「機敏さ、素早さ、敏しょう性」です。「学びのアジリティ」とは環境変化に対する適応の機敏性を意味します。また、4番目に挙がっている「パターン認識力」とは、一見するとバラバラに見える個別事象をパターン化して認識する能力です。ビジネス環境が急変した時に過去の事例と共通するパターンを認識することで、素早く適応できるということです。

1.学びのアジリティ(Learning Agility)
2.修羅場経験の幅(A track record of formative experience)
3.客観的認識力(Self-Awareness)
4.パターン認識力(Aptitude for logic and reasoning)
5.リーダーの役割を担う内発的動機(The drive to be a Leader)
6.リーダーに適した性格特性(Leadership Traits)
7.自滅リスクを回避する力(Managed derailment risk)

今の20~30歳は「さとり世代」と呼ばれることがあります。2013年に「流行語大賞」にノミネートされたので、耳にした人も多いことでしょう。出世や競争などには冷めていて、無駄なことを嫌う合理的な傾向が見られるというのがネーミングの由来です。しかし、リーダーを目指すなら悟っていてはダメだと著者は助言します。「出世欲は悪ではない」と意識変革を求めます。5番目の条件である「リーダーの役割を担う内発的動機」を解説した部分から引用しましょう。

近年の若者が重視するようなワークライフバランス的な考え方とは対極的にあるような事例ですが、実はFさんのような上昇志向、出世志向はVUCAの時代には非常に重要な要素です。(Fさんとは、総合商社に就職したあとに海外子会社に志願して出向した意欲的な若者=編集部注)
日本ではワークライフバランスが「仕事を減らして残業を減らして余暇を過ごす」というような仕事自体の重要度や注ぐエネルギーを下げるような文脈で語られていますが、本来は「テクノロジー活用による地理的な制限の排除や作業効率・コミュニケーションの向上で新たな時間を創出する」というのが世界のスタンダードで、仕事の重要度や注ぐエネルギー量は変わっていないのです。
(第4章 VUCAの世界で生き抜く力を鍛える 164ページ)

これからの時代は、大企業に新卒で入ったとしても安定を得ることにはなりません。40代半ばまでには「経営陣」と「それ以外」に区別されることになると著者は警告します。「経営者」を目指すなら「目の前にある仕事に全力投球し、自分が内発的に意義やモチベーションを感じる仕事のヒントを探ろう」と呼び掛けます。

ただ、若いうちはそもそも「やりたいことがわからない」と悩むケースもあります。そんな人は「自分は何をすることで社会に貢献したいのか」という問いを設定してみてはどうでしょうか。「不確実な世界を楽しむくらいの心構えで、チャレンジしてみましょう」――。人事コンサルティングのプロとして、著者は若い世代にこうエールを送っています。

◆編集者からのひとこと 日本経済新聞出版社・雨宮百子

転職、起業、フリーランス……。多様な働き方の人が増え、自分の選択肢も広がる一方、「正しい選択の方法」に関しては誰も教えてくれません。成功者や失敗者の生の話を聞くのが一番ですが、めまぐるしく過ぎていく日常生活の中で、人を探し、出会い、話を聞く時間を確保するのはとても難しいです。

本書は、こうした悩みに答えるため、実際のケースをもとに、キャリア選択の疑似体験ができる作りになっています。また、世界規模のコーン・フェリーの調査から、これからの時代で活躍する人の要素を7つに落としこんでおり、「日本」というマーケットだけではなく、世界を舞台に戦うための視点が入っていることも特長です。どんどん境界がなくなる世界で、戦略的に生き延びたい人に是非読んでほしいです。

一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ出版社の編集者が20~30代のリーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。掲載は原則、隔週土曜日です。

VUCA 変化の時代を生き抜く7つの条件

著者 : 柴田 彰, 岡部 雅仁, 加藤 守和
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,760円 (税込み)