以前の記事でも「少量飲酒においては、飲酒によってリスクが上がる疾患より、心疾患などリスクが下がる疾患の影響が大きいためJカーブになる」と説明したが、最新研究ではより多くのデータからこの両者のバランスが再検証され、Jカーブから緩やかなLカーブになったということか。
「もちろん、1つの論文で結論を出すのは危険です。色々なデータを見て判断する必要があります」と吉本さんは前置きしつつも、「この論文の登場で、多くの医師・研究者が『少量飲酒が体にいいとは言えなくなってきた』と感じるようになっていると思います。特に、これまで研究者の中で『全く飲まない人の死亡リスクがこんな高いわけないよね?』と疑問に思われていた部分がクリアになったのは大きいでしょう。また、飲む人より、飲まない人の方が、がんの発症リスクが低いという点についても裏付けの1つになったと考えています」(吉本さん)
「この結果を見ると、『健康にいいから』と大手を振って飲むことはできなくなりますね」(吉本さん)
……。満面の笑顔でそんなこと言われても(涙)。
なお、吉本さんは、「少量の飲酒が心疾患などのリスクを減らすことはアメリカ心臓協会(American Heart Association)も認めていながら、それでも飲まない人に飲酒を推奨しているわけではありません」と話す。「健康日本21においても『飲酒習慣のない人に対してこの量の飲酒を推奨するものではない』と明記されています」(吉本さん)
死亡リスクを高めない飲酒量は、週100gが上限?
先ほどのグラフをよく見ると、アルコール消費量とアルコール関連疾患のリスクの関係は直線的な比例関係ではなく、緩やかなL字に近いもので、酒量レベル1(アルコール換算で10g)までの上がり方は緩やか。つまり、できることなら酒量はゼロの方が望ましいものの、日本酒半合、ワイン1杯程度までの飲酒であれば、リスクは“さほど”上昇しないということはいえそうだ。
また、冒頭でも少し触れたが、同じLancet誌に2018年4月に掲載されたケンブリッジ大学などの研究では、19の高所得国の住民を対象とした3つの大規模研究を解析した結果から、「死亡リスクを高めない飲酒量は、純アルコールに換算して週に100gが上限」という報告がなされている。こちらの論文では、アルコール摂取量が週に100g以下の人では死亡リスクは飲酒量にかかわらずほぼ一定だったが、週に100gを超えると、150gくらいまでは緩やかに上昇。さらにそれ以上では急上昇している。
こちらの論文の結論は前述のものとは多少異なるものの、Jカーブの形になっておらず、L字に近くなっているところなどは似ている。そして残念なことに、死亡リスクを高めない飲酒量が週100gまでというのは、前述した厚労省の健康日本21の指針である「節度ある飲酒量」の1日当たり20g(=週140g)より、週当たり40g(日本酒に換算して2合)も少ないではないか。
つまり、いずれの論文に拠るにしても、本連載で繰り返しお伝えしてきた「1日当たりの適量20g」という数字は多すぎる、健康に配慮するなら減らす方向が望ましいというのは確かなようだ。
20gを死守するのさえ大変なのに、これ以上、量を減らさなくてはならないなんて殺生な…。
◇ ◇ ◇
私たちは、このまま日本基準の20gを信じたまま飲み続けていいのだろうか? やっぱり減らす? それとも論文が示唆するように、いっそのことゼロにしてしまうのが最善なのか? 後編では、吉本さんに具体的な飲み方について聞いていこう。
(文 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト、図版 増田真一)

[日経Gooday2019年11月8日付記事を再構成]