松田優作の役作りに対する徹底したこだわりとユーモアのセンスが生んだ、探偵物語の工藤俊作は、松田優作が亡くなった後もフィギュアが発売されたりするほどの人気キャラクターである。2002年には渋谷のパルコで「松田優作と現代のクリエイターたち展」が開催されて、当時筆者も取材に行ったが、会場には探偵物語をリアルタイムで見ていない“工藤ちゃん”ファンの若者たちが大勢訪れて大盛況であった。また人気ブランドの「アンダーカバー」のデザイナーの高橋盾も探偵物語の松田優作をリスペクトしていて、かつてコレクションで工藤俊作風のスーツスタイルをモデルに着させてランウェイを歩かせている。
コンビニにベルボトムジーンズ&サイドゴアブーツの若者
こうしたファッション業界の松田優作リスペクト企画は、没後20周年の2009年にもあった。この時には大阪のジャパンデニムの老舗ブランド「フルカウント」から、松田優作モデルというジーンズが限定発売されている。いつも松田優作がライターを入れていた右の尻ポケットにはライターの形をしたアタリが加工されていて、足が長いために当時のジーンズでは丈が足りず3つ折りで縫っている裾をほどいて2つ折りにして穿いていたというエピソードを、そのまま再現した裾。レングスも足の長い松田優作に合わせて同社の通常品よりも10センチ長い90センチ。レザーパッチにはいつも松田優作が台本に書いていた「優作」という文字印が入っている(現在は入手不可)。
そういえば、先日コンビニで「俺たちの勲章」の中野祐二にそっくりの格好をしている今どきの若者を見て、思わず2度見してしまいましたね。
俺たちの勲章の中野祐二といえば、松田優作ファンの間でもジーパン刑事に次いで人気がある刑事ドラマのキャラである。いつもレザーブルゾンにレザーのパンタロンパンツをセットアップで着こなしている。このレザーのセットアップは松田優作が原宿の某店でフルオーダーで作らせたものだったそうだ。レザーブルゾンはショート丈の襟付きで、袖はリブ編みではなく筒型。ウエスト回りは大きめのリブ編みで、右腕にはフライトジャケット風のポケット付き。レザーパンタロンはジーンズ風に5ポケット仕立てで、いつもサイドゴアブーツを合わせて穿いていた。
筆者がコンビニで見た若者は、このレザーブルゾンにそっくりなデザインのレザーブルゾンに、裾幅が25センチはあろうベルボトムのパッチポケットタイプのジーンズを合わせて、さらに靴も中野祐二と同じサイドゴアブーツを履いていたのである。さらにさらに 一緒にいた友人がそのベルボトムジーンズを見て「いいねそれ」なんて言っているのだ。
はてさて、彼らも11月6日が松田優作の命日というのを知っているんでしょうかね?

1961年静岡生まれ。コピーライターとしてパルコ、西武などの広告を手掛ける。雑誌「ポパイ」にエディターとして参加。大のアメカジ通として知られライター、コラムニストとしてメンズファッション誌、TV誌、新聞などで執筆。「ビギン」、「MEN’S EX」、JR東海道新幹線グリーン車内誌「ひととき」で連載コラムを持つ。

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