Men's Fashion

スーツ姿は軽やかに「モデル時代にポーズ鍛えられた」

SUITS OF THE YEAR

俳優 草刈正雄さん(下)

2019.11.15

撮影日の草刈正雄さんは長身に似合う、濃紺のスリーピースをまとった。着流し風にジャケットを羽織り、すっと足を組むかと思えば、立ち上がってポケットに手を入れながら左右に体を揺らす。流れる音楽に合わせて何やら口ずさみながら、次々表情を変えては撮影に臨む。「好きな音楽が流れていると、体が自然に動くんです。若いころから一緒」




17歳で上京、「モデル向かない」と思い悩む

映画「記憶にございません!」ではびしっと決まったスーツ姿で官房長官役を好演する。それもそのはず、スーツの着こなしには年季が入っている。10代後半、モデルとして活躍していた雑誌「男子専科」では「着るものはほとんどスーツで、かちっとしたポージングを鍛えられた。一方、僕が出ていなかった男性誌『メンズクラブ』はラフなファッションでポーズも自由。うらやましかったですね」

17歳で上京したてのころは、カメラマンにああしろ、こうしろと言われても全然動けず、怒られてばかりだった。数カ月たっても思うような表現ができなかったため自分はモデルに向かない、実家のある九州に帰ろうかと思い始めていたころ、大きなチャンスが到来した。マネジャーと顔見せに訪れた広告制作会社で、伝説のCMディレクター、杉山登志さんと出会ったのだ。

スーツ・オブ・ザ・イヤー2019授賞式で。「おしゃれ音痴で実はファッションのことはよくわからなくて」(東京都千代田区のPALACE HOTEL TOKYO)

杉山さんは資生堂のCMを中心に天才の名をほしいままにした巨匠。ロケが多く、会社に来るのは1年にほんの数回だった。たまたま出会った草刈さんに目をとめ「カメラテストをしよう」と地下スタジオに招き入れた。10日ほどすると資生堂の男性用化粧品、MG5のCM出演が決まり草刈さんは一躍有名になる。それから資生堂のCMに次々出演。「杉山さんたちとの仕事は海外ロケも多く、とにかく楽しかった。その演出で演技の面白さにも目覚めました」。華やかな世界で活躍するようになり、人気が急上昇するが「九州の田舎から上京したので免疫がなく、女性との付き合いが苦手でした」。

仕事にはひた向きに取り組み、休みの日には、ぼーっとしているのが好きだという。この20~30年は「うち虫」。部屋で自分の椅子に座っているだけで動かないという。「とにかく究極のなまけもの。ああ、暗くなったなあ、テレビも面白い番組がないし、寝ようかな、の繰り返し。物欲もなくて。仕事以外は何にもしたくないの」と笑う。

草刈 正雄

1952年生まれ、福岡県出身。 1970年にモデルとしてデビュー。その後も舞台やドラマ、映画で名演をこなし、映画 『 記憶にございません! 』 では政界を牛耳る官房長官役を好演するなど、幅広く活躍。

(Men's Fashion編集長 松本和佳)

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