――関西拠点の航空会社として「おもろい」も打ち出しています。

「LCCは映像など機内のエンターテインメントがありません。関西のお笑い文化はしゃべりだけで盛り上がっている。この『おもろい』を混ぜるとサービス業としてお客様に評価されると考え、機内アナウンスを関西弁でやってみました。コストはただですから」

「営業部隊にもおもろくない提案は持ってくるなと言っています。『他の会社で成功しているのでうちもやります』ではおもろくないじゃないですか。『寄り合い』というブレーンストーミングを1時間限定でやっていました。いいアイデアはプランの形にして『大喜利』というイントラネットで社員の意見を聞き、評価が高いものを本当に予算化してやります。ウナギ風味のナマズ丼や神戸ビーフ弁当、機内での自動車販売などを期間限定で実現しました。社員の暗黙知を形式知にしていくプロセスです。なるべく社員の思いやノウハウを形にしてピーチの文化にしていきたい」

社長室は設けず、報告は待たない

――率先してコストカットにも取り組みました。

「どうなるかわからないベンチャーに集ってきた社員には2つ報いたかった。来て良かったという結果を残すことと、成果を十分に分配することです。そのためにはお客様に関係ない備品類などは犠牲にし、ANAから中古をもらってきたりしました。社長室も設けず、運航を管理するオペレーションフロアに普通にいました。すると状況がすぐわかるんですね。オペレーションが乱れると、まずオペレーションコントロールセンターがざわざわして黒板に何か書き始めます。すっと行くと、だいたいわかります。報告を待つのではなく聞きにいく。彼らも私が何を気にしているかわかってくれます」

――14年3月期に国内LCCで最初に黒字化しました。秘訣は何でしょう。

「『すべてはコスト』というマーフィーさんの教えを忠実に守ったことだと思います。同時に『ノープロフィット、ノービジネス。利益を上げなきゃ慈善事業だ』と折に触れて強調しました。例えば、シートピッチ(座席の前後間隔)をわずかに短くして1機当たり14席分増やしました。シートピッチと運賃のバランスでOKならかまわないという考えです。パイロット、客室乗務員、人事、広報など違う職種の人間が同じ方向に向かって突き進めたことも大きかった」

関西国際空港に届けられた初号機とともに(2011年11月10日)

「お客様の予想を超えて驚かせるのも時々必要です。初就航の際は限定で関空―新千歳、福岡を片道250円で打ち出しました。また、ソウル日帰りをしている女性客がいるらしいと耳にして、ソウル日帰り往復7400円を試しに出してみました。すると確かによく売れて、いまや『海外旅行の0泊弾丸スペシャル』は定番商品です。おもろいでしょ」

――好事魔多し。14年4月、機長不足で最大2000便の減便を発表しました。

「私の決断で数カ月先まで2000便を超える便の欠航を発表し、謝罪しました。1カ月ごとに刻んで発表する手法もありましたが、お客様には迷惑な話です。その時の学びは二度とお客様には迷惑をかけないこと。18年からはパイロット資格を持たない人も選考して『パイロットチャレンジ生』として訓練を受けさせる自社養成スキームを導入しました」

もっともっとピンクでいけ

――17年2月、ANAHDがピーチを連結子会社にすると発表しました。自由闊達な社風が損なわれないか、懸念する声もありましたが。

「最初は私も心配しました。ところがホールディングスの片野坂真哉社長が記者会見で『ピーチの独自性は尊重する』とおっしゃった。私には直接、『決して(ANAカラーの)青くなるな、もっともっとピンクでいけ』と言われました。ピーチはフルサービスのANAとのシナジー(相乗効果)を極大化するため、そのまま独自路線を取れということです。私は新しいアイデアを出す時でも『ANAと真逆を行け』と話しています」

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井上慎一
 1958年生まれ。神奈川県出身。82年に早大法学部を卒業し三菱重工業入社。90年に全日本空輸に移り、北京支店総務ディレクターやアジア戦略室室長などを経て、2010年にLCC共同事業準備室室長。11年2月にピーチ・アビエーションの前身会社のCEOとなり、同年5月から現職。18年11月からはバニラ・エア社長も兼務していた。

(編集委員 宮内禎一)

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