「野獣」であれ 必要なのは最後に責任をとる覚悟ピーチ・アビエーション 井上慎一CEO(上)

ピーチ・アビエーションの井上慎一CEO
ピーチ・アビエーションの井上慎一CEO

日本初の格安航空会社(LCC)として2012年3月、関西国際空港を拠点に運航を開始したピーチ・アビエーション。11月1日には同じANAホールディングス(HD)傘下のLCC、バニラ・エアと経営統合を完了し、輸送旅客数では全日本空輸(ANA)、日本航空(JAL)に次ぐ国内第3位の航空会社となった。井上慎一最高経営責任者(CEO)は「空飛ぶ電車」「キュート&クール」「おもろい働き方」といった個性的なコンセプトや企業理念を創出。「敵を倒す」気構えで、全く白紙の準備段階からピーチをけん引してきた。

(下)「人は化ける」 ちゃんと教えれば組織は変わる >>

――CEOとして特に心に刻んでいることは何ですか。

「『君はビースト(野獣)たれ』です。運航開始前の11年、ライアンエアー(アイルランド)を欧州最大のLCCに育て、LCCのレジェンドとも呼ばれるパトリック・マーフィーさんにアドバイザー就任をお願いに行ったときに、いただいた言葉です。『ビーストですか?』と、もうびっくりしました」

「社員や家族を幸せにするのが組織のトップの大きな使命の一つなので、敵は必ず倒す気迫でやれということなんですね。妥協は自分たちの強みを殺してしまうから、他社とコードシェア(共同運航)はするな、航空会社同士のアライアンスにも入るなと言われました。この強烈な教えを守っています。穏やかなマーフィーさんですが、アイルランドでラグビーをやっていてスクラム最前列中央のフッカーだったんです。戦闘的なわけですね。『経営理念の伝道者たれ』とも言われました。バニラと一緒になって組織がどんどん大きくなる中、価値観が共有できないと足並みをそろえていけません。伝道者として価値観を共有させるリーダーシップは大事です」

――LCCの計画は当初、全くの白紙だったそうですね。

「ANAで北京に駐在していた08年1月、当時の故山元峯生社長から東京に呼び出されました。今後も人口が増えるアジアの需要を取り込むため、3年以内にLCCを立ち上げろという指令です。青天の霹靂(へきれき)でした。まだ日本では誰もLCCなんて言ってなかったころ、『俺はやるぞ』といった経営者の迫力はすごかった。『LCCとは格安航空会社ですか?』と尋ねると、『格安だけならあんなに成功しているはずがない。それを研究してつくれ。予算と人は任せる』とおっしゃった」

このときに自分の心にスイッチが入った

「本を読み、識者に話を聞いてもLCCの本質はわからない。本当に成功するビジネスモデルなのか疑問を拭えないままその年、シンガポールで開かれたLCCの国際会議に参加しました。名のあるLCC経営者に話を聞こうとしても、体よく断られます。最後にマーフィーさんに当たったら、ジュネーブのオフィスに来るかと名刺を渡されました。後日、ダメでもともととメールを打つと、OKになった。その話がすばらしかった」

「ライアンエアーの運賃設定を尋ねたら、欧州のフルサービス航空会社の7分の1なんです。日本の東京~札幌の運賃ならいくらになるか暗算してみて、大変なことが起きると思いました。このときに自分の心にスイッチが入ったのです。ゴールが見えてやりがいがあると。LCCは『格安航空会社』と訳されていますが、実際は仕組みを変えて生産性を高めることで低コストで運営し結果的に低運賃を実現する『低コスト航空会社』なのだと腑(ふ)に落ちました」

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