ちょうどいい人口規模とは?
もちろん、生活費を抑えるために生活水準を下げては意味がありません。もしそうするなら、移住などせずに今の生活で食費や衣料費などを抑制すればいいわけです。それをしたくないからこそ、「生活費水準」を引き下げるために地方都市に移住するのです。
そのために大切なのはある程度の人口規模だと思います。東京や大阪、名古屋、福岡といった大都市に隣接していないことも大切です。独立的で文化的な生活基盤があるためには一定程度の人口規模が必要です。大都市圏に隣接しているとそれに依存してしまい、地方都市だけで生活を完結できないという懸念もあります。
全くの主観にすぎませんが、これまで出張してきた都市を見ると、50万±20万人くらいの規模が都市の大きさとしてはちょうどよいように思います。例えば、愛媛県松山市は人口が51万人で、大きなデパートが2つあり、大街道という西日本一大きな飲食街も整っています。また松山市は周りに大きな都市がありませんから、他都市に依存することもありません。高齢になってからの暮らしに必要な、ある程度のものが松山市にはそろっているはずです。
そこで各都道府県の人口30万~70万人程度の県庁所在地を対象にし、人口、人口密度などを比較しました。移住に望ましい条件として、人口密度が1平方キロメートル当たり1000人以上で、消費者物価が東京都区部より低く、家賃が半分以下と設定しました。全てを満たす候補は、熊本、宇都宮、松山、高松、岐阜、奈良、前橋の7都市です。
野尻哲史
フィデリティ退職・投資教育研究所所長、フィンウェル研究所所長。一橋大学卒業後、内外の証券会社調査部を経て2006年にフィデリティ投信に入社。07年からフィデリティ退職・投資教育研究所所長。19年にフィンウェル研究所を立ち上げ「複業」をスタート。アンケート調査を基にしたお金に関する著書・講演多数

[日経マネー2019年12月号の記事を再構成]