
地球に存在する炭素の90%以上が地中にある。さらに驚くべきことに、地中にも微生物が繁栄していて、それらがもつ炭素の質量の合計は、77億人の人類がもつ炭素質量の合計の400倍に上ることがわかった。地球最大級の生態系が地下深くにあるという発見は、55カ国、1200人の研究者が10年にわたって地球内部の機構を調べた「深部炭素観測」(Deep Carbon Observatory:DCO)プロジェクトから得られた多くの知見の1つだ。
DCOは、プロジェクトの締めくくりとして2019年10月24日から26日にかけて米ワシントンDCで会合を開き、世界中から数百人の科学者が参加して研究成果を共有した。
「私たちは今や、地球の生物圏と岩石圏が1つに統合された複雑な系であること、そして、炭素がその鍵を握っていることを知っています」とDCOの事務局長を務める米カーネギー研究所のロバート・ヘイゼン氏はインタビューで語った。「これは、地球についてのまったく新しい考え方です」
この10年間に、DCOは268のプロジェクトを立ち上げ、その研究から1400本の査読付き論文が生まれた。以下では、地球深部に関するDCOの驚くべき発見の中から、いくつかを選りすぐって紹介する。
1. 地中と地上の炭素循環
植物や動物に由来する炭素は、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込むプロセスにより、数億年の歳月をかけて地中深くに潜ってゆく。その証拠に、かつて生物の一部だった炭素が、地下410~660キロで形成されたダイヤモンドの中から見つかっている。地中に取り込まれた炭素は、長い時間がたてば、ダイヤモンドや岩石、火山ガス中の二酸化炭素となって、再び地表に戻ってくるのだ。
別の見方をすると、地球は私たちと同じように、炭素を取り込んだり排出したりしていることになる。こうした炭素循環のプロセスは、かつては安定していたが、人間がバランスを崩してしまった。人類が膨大な量の炭化水素(石油、天然ガス、石炭)を地中から取り出して燃やすようになったせいで、地中の炭素が地表に戻る部分だけが加速してしまったからだ。さらに、都市や道路の建設や森林伐採などにより地表が大きく変化した結果、地球が炭素を取り込む能力も損なわれてしまった。
この炭素循環の破壊こそ、私たちが「気候クライシス」と呼んでいるものの正体なのだとヘイゼン氏は言う。「気候変動は、遠い未来ではなく、ほんの1世代か2世代先の人類の存亡にかかわる問題です」
非常に危険なレベルの地球温暖化を避けるためには、今から20~40年後には化石燃料による二酸化炭素の排出をゼロにし、すでに大気中に放出された二酸化炭素の多くも除去しなければならない。
しかしヘイゼン氏は、DCOが明らかにした深部炭素循環に関する新しい知識に希望を見いだしている。自然界には、炭素を隔離する「信じられないくらい強力」な仕組みがあるというのだ。

2. 二酸化炭素を吸収する岩石
自然がもつ炭素隔離作用の一例は、オマーンにある「サマイル・オフィオライト」という岩石層に見ることができる。はるか昔、地球の上部マントルから押し上げられてきたこの岩石は、風化作用と岩石中の微生物の作用によって空気中の二酸化炭素を取り込んでいる。
このプロセスの効率は非常に高く、「大気中の二酸化炭素が吸収されて岩石として蓄積される様子を、実際にその目で見ることができます」とヘイゼン氏は言う。
実験により、オフィオライトの岩石層に炭素を豊富に含む流体を注入すると、炭酸塩鉱物が速やかに形成されることがわかっている。これを利用して、大気から数十億トンの二酸化炭素を除去できる可能性があるが、途方もない規模のプロジェクトになると、ヘイゼン氏は話す。
オフィオライトは北米やアフリカなどでも見つかっている。他にも、ハワイなどで見つかる玄武岩も、自然界の炭素隔離作用の一つだ。アイスランドでは、DCOのプロジェクト「CarbFix」が、炭素を含む流体を玄武岩に注入し、固体に変化させられることを実証している。
地球の炭素吸収能力に関するこれらの新しい発見は「私を非常に楽観的にしてくれます」とヘイゼン氏は言う。