就活前に長期インターン バイトより本当に有利か
企業で数カ月にわたって社員のように働く長期インターンと、一般的なアルバイトはどちらが就職に有利なのだろうか。就活を早めに始める、いわゆる意識の高い学生は、長期インターン派が多そうだ。しかし、営業や接客の仕事には、アルバイトが役に立ちそう。長期インターンとアルバイト、そもそも何が違って、どちらが有利? よくある疑問をまとめた。
9月の金曜夜、銀座の真ん中に大学1、2年生を中心に30人ほどが集まるイベントがあった。テーマは「長期インターンは就活・入社後に有利か否か」。
このイベントを発案した野村恵永さんは専修大学4年生。大学2年のときからIT(情報技術)系企業などで長期インターンを複数経験した。「インターン先で先輩社員や人事担当の話を聞く機会もあった。自然と就活への心構えができたし、自分の将来の目標に近づくためにどんな会社を選ぶかを考えられるようになった。長期インターンは就活の際に必ず役に立つ」と実感しており、イベントを発案したという。
興味深いのは、集まった1、2年生のほとんどは「就活で有利になるからインターンで働きたいというよりは、将来にどう役に立つのかを知りたい」と考えていたことだ。
バイト・インターン、法律上の立場は同じ
働くならバイトでもいいのではないか。一体何が違うのか。
そもそも、アルバイトも有給の長期インターンも法律上の立場は変わらない。インターン求人情報サイトJEEKを運営するTechouse(東京・千代田)の宇野蘭之介さんは「企業が採用した人を戦力、人材として育成しようと思っているかどうかの違い」と説明する。
アルバイトの場合、時間と場所、時給の折り合いがつけば採用になることが多いが、「長期インターンは企業が将来にわたって活躍する人材を育てようと思っているので、学生はなぜこの会社で働きたいかを説明できないと、採用してもらえないことが多い」(宇野さん)という。このためJEEKではサイトの利用者にキャリアアドバイザーがつき、自己分析や志望動機などを準備する機会を設けている。
企業側が戦力として育成しようとしているから、学生は様々なスキルを身につけることができる。これが、一般的な長期インターンのイメージで、どちらかというと単純作業が多いアルバイトとの線引きはこのあたりにある。
このためだろうか。「大学1年なのに長期インターンを考えていると、『意識メン』とかいわれがちです」。長期インターンの採用面接を控えた法政大学1年の男子生徒はいう。意識メンとは意識が高い学生を指すらしく、もうそんなことを考えているのかと驚かれるらしい。
また、神奈川県内の私大1年の女子学生は「先輩たちがバイトを辞めて長期インターンを始めたと聞いて、バイトじゃダメなのかと焦り始めた」と打ち明ける。
接客や営業ならバイト経験役立つ
しかし、都内の私大4年の男子学生の見方は少し違う。これまでに接客などのいわゆるバイトと長期インターンの両方を経験してきた。周囲にインターン経験者も多い。彼は「バイトより長期インターンの方が格上という見方は、ちょっと違うと思う」と話す。
なぜなら、「結局は本人の目的意識次第だから」。例えば、「接客のバイトは将来、営業とか接客の仕事につくときに生きる経験になった。オフィスでインターンとして働くことだけが、社会経験ではないと思う」と話す。
また、一部で長期インターンの学生を都合のよい戦力として酷使する企業も、残念ながらある。やりがいがあってスキルも身につくことを強調し、残業や仕事の持ち帰りを暗に求めるといったケースがあるようだ。インターン求人紹介サイトのJEEKやInfrA、アイタンクジャパンなどでは、こうしたブラックな事例が見受けられた場合にはすぐに対応策を講じる。例えばInfrAの場合は「約束した条件に反し学生に不利益があった場合には、当該企業はサイトからの退場処分になる」(運営会社Traimuuの高橋慶治社長)という。
ブラックインターンにご注意
「あれはちょっとブラックだったなあ」と振り返るのは、都内の大学3年生の女性。ファッションに興味があり、服飾系の勉強をしている。1年生の夏からこれまでに3種類の長期インターンを経験した。そのうち1社で「もう少し出勤してほしい」と当初の契約以上に働くことを求められたことがあった。「これくらい家でできるでしょ?」と自宅に持ち帰って残業するよう頼まれたりすることも、頻繁にあった。SNSを活用したマーケティングの仕事で「身につくスキルとか知識は、普通のバイトとは桁違いだったけれど、この会社で働き続けることはできないと思った」という。
ただ、この女性はこの経験を決してネガティブに捉えていない。「こういう会社はダメという経験も含め、業界の仕組みや収益のあげかたもわかった。自分の中に判断軸がちゃんとできた」という。さらに面白いのは、普通のアルバイトも今も続けていることだ。「着物で接客する飲食店だから、日本の伝統的な作法を学べる。バイトもいろんな経験になります」と話す。
大学時代は社会人への助走期間である。どんなふうに助走するか。それを決めるのは自分だ。
(藤原仁美)
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