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前座から「落語家」へ 弟弟子・談洲を待ちうけるのは

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

12月1日、弟弟子の立川談洲(たてかわ・だんす)が二ツ目に昇進する。

東京の落語界には前座・二ツ目・真打ちと3つの身分がある。僕は二ツ目、師匠である談笑は真打ち。そして談洲は11月いっぱいはまだ前座だ。

入門時、師匠から何度も言われたのは「前座はまだ落語家じゃない。落語家になるための修業をしている落語家未満の状態だ。そのことを忘れないように」ということ。落語家じゃないのだから、例えばこの連載のように「落語家として」仕事を請け負うことは許されない。

基本的にはお茶を出したり着物をたたんだり出囃子(でばやし)の太鼓をたたいたりと、師匠や先輩方の落語会の手伝いをするのがメインの仕事。そこで落語家としての振る舞いを身につけながら、落語の稽古をする。開口一番として落語会のはじめに一席勉強させていただけるたまの機会が何よりのご褒美だ。だって、落語をやりたくて入門してきたのだから。

通常3年から5年の前座修業を終えると二ツ目になる。二ツ目になると晴れて「落語家として」自分の裁量で仕事を請け負うことができる。独演会を催して自分の落語を世間に問うこともできるし、こうやって落語以外の連載仕事をやったり、テレビやラジオに出演したりしてもいい。

それでも二ツ目はまだまだ落語家として一人前ではない。監督責任とでも言おうか、何か問題を起こしてしまったときに最終的に責任を取るのはそれぞれの師匠になる。自分で自分の責任すら取ることが許されないのが二ツ目だ。

前座時代は「落語家」ですらない

二ツ目を10年ほどやると、晴れて真打ちとなる。真打ちになればいよいよ落語家として独り立ちすることになる。弟子を取ることも許されるし、一人の落語家として意見が尊重されるようになる。

最上位である真打ちに昇進するのはとてもうれしいことだと思うけど、先輩方が口をそろておっしゃるのは「二ツ目から真打ちに昇進するときよりも、前座から二ツ目に昇進するときの方がうれしかった」ということ。確かに、一応落語家として仕事ができている二ツ目から真打ちに昇進するよりも、落語家ですらない、言ってしまえば何者でもない状態から落語家として認めてもらえる瞬間の方がうれしいに違いない。

僕の場合は少し特殊なケースだった。談笑の一番弟子となった入門時から師匠に「やることやって、早く二ツ目に昇進しちゃいな。こっちもいつでも昇進させるつもりでいるから」と言われていた。師匠の考えは「いずれ良い落語家になれたらいいなぁと思いながら長い期間前座として働くのでなく、早く二ツ目になって落語家として自分がやりたい落語を試してみなさい。そして、それがお客様に楽しんでもらえるならこんな幸せなことはないし、そこでもしお客様に楽しんでもらえないようなら、すぐに辞めなさい。君が必要とされている場所は必ずどこかにあるし、たまたま向いていない落語を無理に続けることは、君の人生にとっても、お客様にとっても、落語にとっても良くないことだから」ということなのだと思う。

入門当初からそのような話を何度も繰り返し聞いていた僕は、結果的に入門10カ月で「いつ昇進してもいい」と許可をもらい、1年半で二ツ目に昇進した。異例中の異例だ。本当はもう少し前座の身分で経験を積みたいと思っていたけど、色々な事情が重なって昇進せざるを得なくなった。

二ツ目になれるのはもちろんうれしかったけど、それ以上に3年以上キャリアが上の先輩方と同じタイミングで昇進し、これからしのぎを削っていかなくてはならないことへの不安の方が大きかったことを覚えている。

その点、談洲は決して早いとは言えない29歳での入門。また入門前は大手お笑い事務所に所属して芸人活動をしており、しかも大きなホールで単独ライブができるくらいに注目もされていたらしい。それらを投げ捨ててまたイチからの下積み生活。しかも兄弟子は1年半で昇進したけど、それ以降「最低3年は前座修業をすること」というルールが追加されたことで、どれだけ頑張っても32歳になるまでは落語家ですらない身分で下働きし続けなくちゃいけない。だからこそ、この昇進は本当にうれしいものなんだろうなぁと想像する。

自分の内側に隠したものを解放

全ての前座がそうであるように、談洲もまだ自分の内側に隠している本当の自分を出していないだろう。落語家という不安定な世界に飛び込めるくらいだから、自分だけは自分を信じている。不安もあるけどそれ以上に「絶対面白い落語家になれる」という信念があるからこそ全てを投げ捨てて弟子入りできる。

何者でもないことを要求される前座という身分ではそんな「本当の自分」はどうしたって出せないけど、二ツ目になったら違うのだ。「本当の自分」を解放して全力で落語に取り組む。それを楽しんでくださるお客様をどれだけ増やしていけるか。そういう戦いになる。

ミュージシャンのファーストアルバムには独特の初期衝動が詰まっていることが多いように、昇進したての落語家の高座にもベテランには到底出せない瑞々(みずみず)しさがある。まもなく談笑一門に新しい「落語家」が誕生します。1カ月余りを経た年明けには、大きなホールでの昇進披露落語会も開催するようなので、お祝いがてらどうぞお運びください。

談洲はいま、とてもうれしいに違いない。だけど12月に昇進するということは、直後のお正月には、前座さんにお年玉をあげなくちゃいけないことにはまだ気づいてないだろう。前座さんの数が思っている以上に多いこと、そのため想像以上の出費があることを知らないだろう。実は前座の時の方が生活が安定しているケースが多いことも知らないだろう。ここからが正念場だ。

立川吉笑
 本名は人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。エッセー連載やテレビ・ラジオ出演などで多彩な才能を発揮。19年4月から月1回定例の「ひとり会」も始めた。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)。

これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧ください。

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