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イルカ目線を知っておこう 視力や色覚、ヒトと違いは

東海大学 海洋学部 村山司(2)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物を通して、世界の不思議や課題にふれる人気コラム。今回転載するシリーズのテーマは、イルカとヒトの言葉を介したコミュニケーション。人類の未来を考えるヒントも隠れているようです。

◇  ◇  ◇

動物としゃべれたらどれだけ素敵だろう。

古来から、我々、人間は動物との会話に憧れてきた。旧約聖書のソロモン王が、大天使から与えられた指環を使って動物と話した逸話は、繰り返し引用される。近代動物行動学の祖の1人、コンラート・ローレンツのベストセラーは、そのものずばり『ソロモンの指環』だ。

さらにいえば、13世紀イタリアの聖人アッシジのフランチェスコも、動物と話した逸話を持つ。19世紀の作曲家、リストは「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」というピアノ曲を作り、20世紀の初期の環境保護活動家たちは、聖フランチェスコを「守護聖人」のように扱った。さらにさらに、近代的な創作の世界では、ロフティングが創造した獣医師ドリトル先生をはじめ、動物の言葉を解する能力者があちこちに登場する。

一方で、動物の方が、人間の言葉を理解し、語りかけてくれるパターンも多い。民話や神話はもちろん、創作でも頻出だ。日本では、狐や狸が人間を化かしてきたし、犬や猿や雉が人間と一緒に鬼退治することもある。ミッキーマウスは世界で一番有名なしゃべるネズミだ。ぼくが愛してやまないSF作家、デイヴィッド・ブリンの『知性化宇宙』シリーズでは、知性を増強されたイルカが登場する。とっさの判断力や三次元空間把握能力に長けるため宇宙船パイロットに多く採用されており、彼らは詩や俳句の形式で話す。

本当に、枚挙にいとまがない。ここに挙げたのは、ぱっと思いついた範囲の話であって、読者はそれぞれ自分のバージョンを、それほど重複なしに作ることができるだろう。「動物と話す」というのは、我々の心をとらえてはなさない一大トピックだ。

東海大学海洋学部の村山司教授は、動物の中でも、とりわけイルカと話すための研究を心に思い定めて歩んできた人物だ。きっかけは、高校生の時に見た映画だったという。

「なんの気なしに見に行った映画で、『イルカの日』というタイトルです。フロリダ州の小島の研究施設で、イルカと人が話してるのを見て、そうか、研究すればイルカと話せるんだと思いまして、その頃から、ずっとイルカと話す研究をしようと思ってきました」

映画の日本での公開は1974年。なんと40年にも及ぶ恐るべき初志貫徹型のモチベーションである。

この映画の中では、英語を教えられたイルカが大統領暗殺計画に利用されるという、よろしくない方向に行ってしまうのだが、それはそれ。村山さんにとって、「イルカと会話している!」という衝撃は甚大だったようだ。

また、作中でイルカに英語を教える研究者のモデルは、前出のリリー博士だと言われている。ことイルカとコミュニケーションというテーマについて、リリー博士は様々な方面の源流に位置するキーパーソンだ。村山さん自身、90年代のイルカブームの頃、鯨類愛好団体に招かれて来日したリリー博士と会ったことがあるそうだ。

さて、問題はここから先。

どうやったら、イルカと話せるだろうか。リリー博士の先行研究はあまりにもぶっとんでいて役立ちそうにない。そもそも幻覚剤など使うのは、今の日本では違法だ。英語や日本語をいきなり教えようにも無理があるだろう。現実的なアプローチとして、ハワイ大学のルイス・ハーマン教授らが1970年代から2000年くらいまで継続したイルカの言語能力についての研究があるのだが、これは人間が発した人工言語による指示を理解するという一方向のものなので、村山さんが目標にする「会話する」(双方向)とは目標が違う。事実上、先行研究なしの状態で、どういった手がかりを辿ればいいのか。

「イルカと話をするということを目標に置いて、何が必要なのかと逆に考えていきました。そうすると、まず意思を伝え合うことができる言葉を教えなければならない。言葉を教えるには、人が語学を覚えるのと同じ方法がまず考えられる。そうすると、いろんな文字を使ったり音を使ったりするから、そういったものがイルカに使えるかどうかということを確かめなきゃいけない……というふうに考えていって、一番最初にやったことは、果たしてイルカっていうのは人と同じふうに物が見えてるのか、ですね」

いきなり英語や日本語を直接教えるというのではない。イルカと人との間でコミュニケーションできる簡単な人工言語を考えた方がまずはよかろう。そのためには、イルカと人間との間でどの程度視覚や聴覚が共通するのかを知らなければならない。人工言語に視覚的なシンボルを使おうにもイルカに判別できないものなら意味がないし、聴覚にしても然り、だ。

では、なぜ、村山さんの最初のステップは視覚、だったのか。海中では、視覚よりも聴覚に頼っているイルカだから、聴覚の方がよかったのではないか。

これには、どうやら2通りの理由があるようだ。

「聴覚については、すごい進んだ研究例があるんです。ですので、イルカがどの程度聞けるのかは、今さら調べることもなかったんです。人間以上の聴力だというのは、もうわかってると」

たしかに、イルカがすごい聴覚を持っているということは、子ども向けの図鑑にも書いてある有名な事実だ。前述のハーマン教授(ハワイ大学)の研究でも、音声でイルカに指示をだしていた。人が聞き取るようなことは、イルカも聞き取る、ということでよいのだろう。

「それに、やっぱり音って準備するのが大変なんですよ。スピーカーを用意して、パソコンを用意して、周波数や音圧を調整して……と色々手の込んだことをやらなければならない。それに対して、文字や記号を使うなら、手描きでも何でもパネル1枚あればできる。だから、視覚から入る方がいいというのもありました」

そういうわけで、村山さんはまずイルカの視覚から研究を始めた。それも、基礎中の基礎ともいえる「イルカの視力」がテーマだった。

「イルカの眼球の標本で、網膜の神経節細胞とか、視細胞を一生懸命数えて、その密度から視力が推定できるんです。それで、シロイルカを含めて、イルカってだいたい0.1くらいの視力があると分かりました」

視力というのは、どれだけ細かなところまで分解して見ることができるかという解像度のことなので、基本的には網膜の上のセンサー密度によって決まる。もちろん、近視になったりしてレンズの焦点がぼやけると網膜の「性能」が活かせずに解像度が落ちる。我々が社会生活上問題にしている視力は、むしろ、焦点が合わなくなっている状態のことが多いので、ちょっとだけニュアンスが違う。

「あとはコントラストの識別、だいたい人と同じようにコントラストがわかるんだなとか、回転する図形を見たときに、人と同じように回転する角度が大きくなると間違いやすくなるんだなとか、そういったようなことは、今度は水族館のイルカでの実験でやっていきました」

具体例として、回転する図形について。

「これは、カマイルカでやった実験なんですが、JやVという文字を使って、それを45度、60度、90度、というふうに回転させながら、区別できるかというのを見るんです。回転する角度が大きくなるほど、正答率が落ちていくという結果でした。シロイルカのナックでも、似たような実験をやりまして、同じような結果になりました」

さらに、興味深いのは色覚についてだ。

「イルカの網膜には、色を判別する錐体という視細胞があるにはあるんです。でも、今まで、実際に色を識別できたという報告がありません。わたしも、やってみたんですけど、白と黒や灰色の濃淡は分かっても、色が分かっているふうではないですね。青と白を見分けさせようと思って、青を選んだと思ったら、それは単に色が濃い方を選んでいたり。だから、その青よりももっと濃い灰色を持ってくると、青じゃなくてその灰色を選んでしまう、とかですね」

海の中は濁っていれば何も見えないし、透明度が高くても青に塗り込められた世界で、繊細な色覚を持っていても、あまり役に立たないというのは想像できる。しかし、錐体を持っているのに色を識別できないというのは面白い。いずれにしても、村山さんが目指す人工言語では、色の識別は使えないということはよく分かった。

「自分でやった実験やほかの研究者の成果で、だいたい、イルカが人と同じように見えているというのが分かってきました。これが90年代の前半です。では、次はというと、人と同じふうに考えているのか、というのを見ておきたくて、言語の前段階の実験をいくつかしたんです」

なんと、イルカが「人と同じふうに考えているのか」とは!

興味津々である。

(2015年5月 ナショナル ジオグラフィック日本版サイトから転載)

村山司(むらやま つかさ)
1960年、山形県生まれ。東海大学海洋学部教授。博士(農学)。1984年、東北大学を卒業後、1991年、東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。水産庁水産工学研究所(現・水産総合研究センター)、東京大学を経て、現職。主に飼育下のイルカを対象に、認知機能やコミュニケーション能力を研究している。『イルカの認知科学――異種間コミュニケーションへの挑戦』(東京大学出版会)、『ナックの声が聞きたくて! "スーパー・ベルーガ"にことばを教えるイルカ博士』『海に還った哺乳類 イルカのふしぎ』(講談社)『続イルカ・クジラ学』(共著、東海大学出版会)など、著書多数。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『天空の約束』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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