「もちろんマーケターでなくても、例えば営業の経験が豊富で得意先のことを知り尽くしている人もいいでしょう。そういう人がマネジメントするほうがいいというのが私の持論です。経営者は、顧客のニーズを熟知し、自分たちは何をすべきかわかる人でないといけないからです」

――フラットな組織になって、若手には変化がありましたか。

「若手というか、新入社員の採用が活発になりました。2020年入社予定は今春より大幅に人数が増えます。フラットな組織には若い人が来てくれるんですよ。僕も必ず面接で皆さんに会います」

――なぜ社長が直接会うのですか。

「今の若い人には『一緒にやろうよ』という姿勢を示すことが必要だからです。どこか普段着な雰囲気で、わからないことを聞いても怒られない、好きなことを突き詰めてやっていいんだ、ということを感じてもらいたいのです。若手と一緒にボトムアップ型で、多少のあつれきや変動があってもすぐに対応できる組織にしたいと思っています」

若手のお手本を若手から選ぶ

――若手の育成で心がけていることはありますか。

「1つ目は、若者向けの商品は若い人につくらせることです。僕はどんどん現場に入って商品開発のヒントを一緒に考えたりしますが、若い世代向けの商品には口出ししません。そこは若手社員のほうが断然わかっていますから。任せると、彼らものびのび仕事ができるようになります」

「もうひとつ気をつけているのは、若手にはお手本が必要だということです。お手本は年上の先輩でなくてもいい。お手本になる人を見て若手は成長するのです。だから、僕は『できそうだな』という候補をまず見つけます。そして、ほかの若手の前で発表などをさせます。例えば最近、初めて商品開発に携わる若手を集めて、『自分が食べたいスナック菓子』を考える研修を開催しました。若手の中からお手本となる人を何人か選んで、発表してもらいました。こうすると、発表の機会がない人たちも『あいつ良いな』とか『僕もがんばろう』と思ってくれるんです」

英語を習ったティニ・ミウラさん(左)はアーティスト。ものづくりのおもしろさに目覚める原点となった

――これまでに出会って影響を受けた人はいますか。

「高校受験の勉強で英語を習ったティニ・ミウラ先生の影響は大きかった。ドイツ出身で、製本や装丁などの世界的なアーティストです。ノーベル賞の賞状も手がけた人ですが、僕が英語を習っていたのは彼女がまだ若いころでした」

アイデアが浮かぶとささっと描く

「芸術や身体表現を重んじる『シュタイナー教育』を受けた人で、独特の色彩感覚の作品づくりを僕はいつも眺めていました。『21世紀は緑の時代になる』と話していたのも印象的です。実際、国連の『持続可能な開発目標(SDGs)』のように緑がキーワードの世紀になっていますよね。僕は絵を描くのが好きで、何かアイデアが浮かぶとささっと描いたりする。それは、いつもアトリエで先生を見ていた影響だなと思います。『ものをつくる仕事はいいな』と思ったのも、ティニ先生が原点です」

「もう46年ほど昔の話のですが、あのころ先生に聞いた話や見た作品は今も忘れられません。湖池屋も創業の心に立ち返って、どうオリジナルで付加価値もある商品をつくっていけるか。若い人たちとチームプレーをしていきたいと思っています」

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佐藤章
1959年東京都生まれ。82年早大法卒、キリンビール入社。97年にキリンビバレッジ商品企画部に出向。99年に発売された缶コーヒー「ファイア」を皮切りに、「生茶」「聞茶」「アミノサプリ」など、年間1000万ケースを超える大ヒットを連発。2008年にキリンビールに戻り、九州統括本部長などを経て、14年にキリンビバレッジ社長、15年にキリン取締役常務執行役員。16年にフレンテ(現湖池屋)執行役員に転じ、同年9月から現職。

(藤原仁美)

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