実家の母親に年間200万円を「給与」として仕送り

S井がM原との話をA山に伝えると、A山が不審そうな顔をした。

「でも、副業しているなら普通は所得が増えて住民税は上がりますよね? なんか変ですよ」

S井は税務関係についてはあまり詳しくないので、何とも言えない。A山が税理士に再度電話して聞いてみたところ、「事業所得であれば、おそらく経費をいろいろと計上しているのでは?」とのことだった。正義感の強いA山は、M原が不正に経費を計上しているのかもしれないと思い、S井と一緒にM原を問い詰めた。

M原は、「自分は何も不正なことはしていない」の一点張りだ。A山が、「そんなに言うなら、提出した確定申告書を見せてください」と言うと、当初は渋っていたM原だが、観念したように確定申告書をA山に見せた。

A山とS井が確認すると、とんでもない申告内容に2人とも驚き呆れ果てた。経営コンサルタントとしての収入は年間20万円ほどしかないのに、経費が350万円ほどかかったことになっている。自宅の家賃や携帯電話の費用、プライベートの外食代などがすべて経費算入されており、離れて暮らす70歳を超えた実家の母親に対しても従業員として年間200万円近い給与を支払ったことになっている。副業としての経営コンサルタント業で出した赤字をR社団法人の給与所得と相殺し、結果としてほとんど収入がない形にして申告していたのだった。

副業をしていただけならまだしも、脱税ともいえる行為をしているとなると、大変な問題だ。S井はM原に対し、

「黙って副業くらいならまだしも、これは不正だぞ。大変な問題だ」

と、声を荒らげたがM原は「不正なことはやっていない」としらを切っている。S井は、

「とにかく知ってしまった以上は理事に報告するから」と言って話を切り上げた。

退職勧奨を受け、辞める前に会社に嫌がらせ

M原の問題行為をS井が理事に報告すると、大問題となった。臨時の理事会が開かれ、M原に意見聴取を行ったが、M原はあくまでも「不正行為はない」と言い張る。しかも、「懲戒解雇をするなら勝手にどうぞ。その代わり、私も黙ってはいませんよ」と不穏な言葉で脅してきた。理事会は弁護士にも相談の上、懲戒解雇ではなく、退職勧奨を行うことにした。

理事会からM原に退職勧奨を行うと意外にもすんなりとM原は応じた。

S井とA山は、「多分、退職勧奨をごねて、不正を暴かれる方がマズイと思ったのだろう」と話していた。

退職勧奨が行われた次の日から、M原は有給休暇消化に入った。M原の担当業務を整理しようとS井がM原のパソコンを立ち上げると、何と、ほとんどのデータが消えている。驚いたS井が職員で共有しているフォルダを見ると、そこからもM原が担当していた業務関連のファイルはすべて削除されていた。R社団法人では共有データはすべてバックアップを毎日USBに取っていたが、それも削除されていたのだった。

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モラルが低い問題部下の暴走を防ぐ
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