落語家・林家たま平さん 師匠は父親、「見て盗む」
著名人が両親から学んだことや思い出などを語る「それでも親子」。今回は落語家の林家たま平さんだ。
――お父さんは落語家の林家正蔵さんです。家庭ではどんな存在でしたか。
「忙しい人なので、中学、高校と続けていたラグビーも1試合しか見に来てくれず、すこし寂しい思いもしました。それでも、都合を合わせて食卓を囲む機会をつくってくれる優しい父でした」
――高校を卒業した後、お父さんに弟子入りします。
「自分のしたいものは何かと考えたとき、思い浮かんだのが落語でした。跡を継げと言われたことは一切ありませんが、(曽祖父から続く落語家という)落語が身近にある環境に育ったからかもしれません」
「中学3年の時に弟子入りをお願いしたのですが、『目の前のことをしっかりやれ』と断られました。高校でのラグビーが終わり、祖母(作家の海老名香葉子さん)から『噺家(はなしか)になるのかい』と声をかけられて、改めて決心がつきました」
――弟子入りしてお父さんとの関係は変わりましたか。
「弟子入りを許された時に『父と子の関係を絶つ』とはっきり言われました。優しい父とはまったく違う怖い師匠です」
「子ではなく弟子としてみると、師匠の大きさを感じます。覚えているのは、前座の時に三越劇場の舞台の袖で聴いた師匠の『しじみ売り』です。いいものを見たという感動とはちょっと違う気持ちになりました。言葉を操る職業のすごさを感じたというか……。師匠はその高座で、2015年度の文化庁芸術祭優秀賞を受賞しました」
――17年には、前座の次に高座に上がる二ツ目に昇進しました。師匠からどんなことを学んでいきたいですか。
「とにかく、ネタの数を増やすこと、高座にたくさん上がることが大事だと考えています。そして、商売道具となる個性を磨くこと。手取り足取り教えてくれるわけではないので、学ぶというより師匠を見て盗んでいきたいと思っています」
――テレビドラマ「ノーサイド・ゲーム」での熱演に加え、映画「男はつらいよ お帰り 寅さん」に出演するなど、芸の幅も広げています。
「大泉洋さんのドラマへの取り組みを目の当たりにしたり、山田洋次監督の演技指導を受けたりして、まだまだ自分は心でしゃべれていないと痛感しました。いろいろな挑戦の根底にあるのは、自分は落語家ということです。素晴らしい人との出会いは落語に通じると考えています」
――同じ落語家として、師匠はどんな存在ですか。
「自分の進む道のはるか先にある道しるべです。師匠には『弟子は師匠を追い越すものだ』と言われますが『自分は自分』です。落語家の家系は意識せず、自分にしかできないことでお客様を楽しませることを考えていきます」
[日本経済新聞夕刊2019年11月5日付]
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