永久凍土融解で村ごと移転 アラスカ先住民の苦悩

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/11/11
ナショナルジオグラフィック日本版

アラスカ州ニュートックは先住民族ユピックの村。ニングリック川とニュートック川がすぐそばを流れる。気温上昇、永久凍土の融解、浸食が原因で、村に水が入り込み、面積が急激に縮小している。アラスカ州では初めて、気候変動によるコミュニティーの移転を開始。今後、多くの村が追随することになると予想される(PHOTOGRAPH BY KATIE ORLINSKY, NATIONAL GEOGRAPHIC)

2019年10月、米アラスカ州ニュートック村の住民がついに、新しい町への移住を開始した。北米ではほとんど例がない気候変動による移住である。

ニュートックは、ベーリング海からほど近いニングリック川沿いにある人口約380人の村。ここに暮らす先住民族ユピックたちは、20年以上前から移住の準備を進めてきた。永久凍土の融解と浸食が原因で、洪水のリスクが高まり、家の周りの地盤の沈下や崩壊も生じている。ごみの埋め立て地は押し流され、燃料貯蔵タンクは危険なほど傾き、崩壊の恐れがある一部の住居はすでに取り壊された。

そのため、20年以上前から移住計画と建設工事が進められ、10月に入ってようやく、新しく村がつくられるマータービックへの引っ越しが始まった。マータービックはニュートックから約16キロ南東のネルソン島にある。ユーコンデルタを襲った強風と大雨の合間を縫い、18家族がマータービックに引っ越し、エネルギー効率の良い住居で新生活を開始した。

ニュートックの先住民管理者であるアンドリュー・ジョン氏は「文字通り、嵐と嵐の合間を縫って引っ越しています」と話す。

10月中にあと数家族が引っ越す予定だが、全住民の新居が完成するのは2023年以降になる見通しだ。全員の移住が完了するまでは、海に隔てられた2つの拠点で村を運営することになる。

ニュートックの移住を支援するアラスカ先住民医療共同体の開発責任者ギャビン・ディクソン氏は「これから大変になりますが、ニュートックはとても強いコミュニティーです」と述べている。

この村の人々が住む場所を強いられたのは今回が初めてではない。アラスカ州の先住民コミュニティーは数十年にわたり、子供たちを全寮制の学校に入れなければならなかったが、1949年、米内務省のインディアン事務局が全コミュニティーを対象に学校を建設。ニュートックはその用地のひとつだった(PHOTOGRAPH BY KATIE ORLINSKY, NATIONAL GEOGRAPHIC)

広大な永久凍土の融解

20世紀初頭までの数千年間、ユピックは季節ごとに野営地を移動し、アザラシやヘラジカ、ジャコウウシを捕まえたり、ベリーや野草を集めたりしていた。現在も自給自足の生活を送っているが、1949年、米内務省のインディアン事務局が住民たちに意見を求めることなく、現在のニュートックに学校をつくり、村全体が定住を余儀なくされた。

その後、気候変動によって地球の温度が上昇。極北の2300万平方キロ超に広がる永久凍土が融解し始めた。その結果、道路やパイプライン、建物の基礎が崩壊しているだけでなく、融解した凍土から温室効果ガスが放出され、地球の温度がさらに上昇している。しかも、海氷が減少し、沖合に移動した結果、高潮が川を逆流するようになり、河岸の浸食、村への浸水が起きている。海面上昇はこのような浸食を加速させる。

ニュートックの住民たちは、これらの影響をずっと目の当たりにしてきた。かつて安定していた土壌はニングリック川に削り取られ、多いときには年間約25メートルのペースで家々に迫っている。2000年代初頭に発表されたある論文は、早ければ2027年、村の大部分が水没すると予想している。

しかし、ほかのアラスカの孤立した村がそうであるように、新居と移住資金の確保には長い時間がかかる。しかも、ニュートックの場合、一時的な定住地であるという理由から、当局はインフラへの投資に消極的だった。そのため、住民たちはこれまでの数十年間も、水道のない暮らしを送ってきた。飲み水をタンクに貯め、下水道はなくし尿層を使ってきた。衛生状態の悪さは、特に乳幼児の健康問題につながっている。

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