2019/11/11

2003年、連邦議会はついに、ニュートックより高い場所にある火山性の土壌に新しい村をつくることに同意した。新しい村となるマータービックへの移住と引き換えに、ニュートックの土地は返還され、ユーコンデルタ国立野生生物保護区の一部となる。

2003年以降、少しずつではあるものの、道路やコミュニティーセンター、ごみの埋め立て地、発電所の建設費が州と国から支給されるようになった。数週間後にはマータービックで水処理施設が完成し、11月には新しい学校での授業が始まる。滑走路もつくられる予定だ。

ニュートックの老朽化した水処理施設で遊ぶ子供(PHOTOGRAPH BY KATIE ORLINSKY, NATIONAL GEOGRAPHIC)

しかし、60ほど必要な住居は、わずか3分の1の20軒ほどしか建設されていない。建設済みの住居も電気は通っているが、上下水道は利用できない。コミュニティーが最も望んでいるのは、できる限り多くの家を建て、移住することだ。上下水道の整備費が支給されるまでには何年もかかる可能性がある。

そのため、しばらくの間、古い村を維持しつつ、約16キロ離れたマータービックで新たな村を築くことになる。

人々の心境は複雑

しかし、これは決して簡単なことではない。コミュニティーの職員たちはマータービックとニュートックに分かれて暮らし、両方の学校に校長と教員を置くことになる。ビデオを使った授業も行われる予定だ。

ニュートックのコミュニティーが丸ごと移転して、新しい村となるマータービック(PHOTOGRAPH BY KATIE ORLINSKY, NATIONAL GEOGRAPHIC)

生徒も40人と60人に分かれる。先住民医療共同体のディクソン氏は「友達の半分が16キロも離れた場所にいるのです」と語る。

さまざまな変化が起こり、人々は複雑な気持ちを抱いている。マーサ・カサイウリさん(19歳)が暮らしていたニュートックの家は解体され、家族はマータービックに引っ越したが、カサイウリさんはあと数カ月ニュートックに残り、友人たちと過ごすつもりだ。カサイウリさんは現在の心境を詩で表現している。その一部を紹介しよう。

移住を望まない気持ちが大きくなっている。
でも、ここに残っても楽しいことはない。
私たちは知らない場所に移ろうとしている。
でも、年月がたてば、この場所は空っぽになるのだろう。

「多くの人はこの場所しか知りません。その場所を離れることがうれしいはずがありません」とディクソン氏は言う。その一方で、人々はより良いサービスを受けられる場所にようやく移住できることを喜んでもいる。

先住民管理者のジョン氏は、ホッとしている人もいれば、不安を感じている人もいて、一部の人はすでに分離不安障害の症状が出ていると話す。冬の食料を調達することに忙しく、考える暇がない人もいる。

これまで狩りをしてきた場所が少し遠くなる住民もいるが、「彼らが得られる安心と安全に比べれば、大した代償ではありません」とジョン氏は断言する。

マータービックの新しい村に引っ越す前、ニュートックでニシンの干物をつくるモニカ・カサユリさん(PHOTOGRAPH BY KATIE ORLINSKY, NATIONAL GEOGRAPHIC)

「私たち民族の最も大きな特性は適応力だと思います。私たちは事態に柔軟に対応することで道を切り開いてきたのです」

カサイウリさんも次のようにつづっている。「私たちはこの場所を離れることを望んでいないかもしれないが、私たちの物語はより良い結末へと向かっている」

(文 CRAIG WELCH、写真 KATIE ORLINSKY、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年10月27日付]

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