目のない三葉虫が縦列に 集団行動の起源は5億年前?
集団行動の起源は、恐竜が登場するよりずっと昔、5億年近く前まで遡るかもしれない。古代生物「三葉虫」が整列して海底をはう、珍しい化石についての新たな論文が、2019年10月17日付けの科学誌「Scientific Reports」に発表された。
おそらく集団で移動していたか、繁殖のために集合していたのだろう。論文によるとこの化石は、地球の進化史の早い段階で動物たちの秩序立った行動が始まったことを裏付けているという。
初期の生物たちは、5億2000万年前には、触角や目などの精巧な感覚器官と、ここから入ってくるデータを処理できる脳を進化させていた。こうした進化により、動物たちはお互いの動きを感知し、調和して行動できるようになった。
今回記載された化石には、10匹ほどの三葉虫が保存されている。今から4億8000万年前に現在のフランスとモロッコにあたる地域に生息していたアンピクス・プリスクス(Ampyx priscus)という種だ。この三葉虫は視力を持たなかったが、驚いたことに、この化石では直線状に整列しており、ほとんどの個体が同じ向きになっている。
論文の著者であるフランス、リヨン大学の古生物学者ジャン・バニエ氏は、「この化石は、動物の集団行動が数百万年前に始まったような新しい進化的革新ではないことを示しています」と言う。「集団行動の起源ははるかに古く、動物が最初に爆発的に多様化した時期まで遡ることができるのです」
三葉虫は絶滅した海洋節足動物で、現在の昆虫やクモ、甲殻類の仲間だ。同じように整列して移動するイセエビの場合、地磁気のわずかな変化などを利用して向きを定めているとされる。
オーストラリアのニューイングランド大学の古生物学者で、論文の査読者であるジョン・パターソン氏は、「自然のドキュメンタリー番組では、動物たちのあらゆる種類の集団行動を見ることができますが、こうした行動の起源を考えることはあまりありません」と言う。「化石記録に動物の体だけでなく行動まで保存されているのは非常に面白いことです」
奇妙な行列
三葉虫は、地球の初期の生命史において大きな役割を果たした。遅くとも5億2100万年前には登場していて、史上最悪の大量絶滅が起きた2億5200万年前まで生息していた。これは、恐竜(ただし非鳥類型)が繁栄した期間より長い。
その間、三葉虫はかなり多様化した。体長60cm以上になった種もあれば、捕食者から身を守るために曲線的な棘で武装した種もあった。三葉虫が繁殖や摂食のほか、もしかすると天敵から身を守るためにときどき集合していたことは、以前から知られていた。
しかし、三葉虫の集団の化石のほとんどは体の向きがばらばらだ。だからこそ、集団が直線状に整列している今回のアンピクスの化石は注目に値する。2008年には2人の研究者が、数匹の三葉虫が天敵から逃げるために1つの巣穴に逃げ込んだ結果、直線状に整列した化石ができたとする推測を発表している。しかし、今回モロッコのザゴラで見つかった化石をバニエ氏らが調べたところ、そこに巣穴があった証拠は確認できなかった。
パターソン氏は、「巣穴仮説にとどめを刺す発見だと思います」と言う。彼らは、三葉虫が行列になって海底を進んでいたところに嵐がやってきて、あっという間に生き埋めにしてしまったのだろうと考えている。
けれどももしそうなら、目のない三葉虫はどのようにして整列したのだろうか? アンピクスには3本のよく目立つ棘がある。1本は体の前面から、2本は背面から出ていて、新たに記載された化石の多くで、前後の三葉虫の棘が接触している。バニエ氏らは、三葉虫たちはお互いに棘を使って触れ合いながら行進していたのではないかと推測する。あるいは、体から分泌する化学物質でお互いを感知していた可能性もある。
謎は残されている。例えば、一部の化石では、別の種の三葉虫が行列に加わっている。なぜほかの種の三葉虫が行列に紛れ込むことができるのかはわからない。
バニエ氏は、さらに古い集団の化石が見つかれば、謎解きに役立つはずだと言う。2008年には、生物が数珠つなぎになった5億2500万年前の化石が見つかっている。化石を発見した古生物学者たちは、生物たちはこの状態で水中を浮遊していたのだろうと解釈したが、バニエ氏は、三葉虫と同じように海底を一列に並んで行進していたのではないかと考えている。
「集団行動の非常に興味深い例です」とバニエ氏は言う。
(文 Michael Greshko、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年10月21日付]
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