Men's Fashion

1本のデニムにも物語 世代超える「ランチ」の定番

石津祥介のおしゃれ放談

ハリウッド ランチ マーケット探訪(下)

2019.11.5

東京・代官山にあるカジュアルファッションの名店、ハリウッド ランチ マーケット(ランチ)は開業から45年以上がたっても活気に満ち、輝きは色あせない。その理由は、世代も時代も超える商品を集めているからだ。おなじみのウエスタンシャツやデニムはほんの少し時代のスパイスを利かせ、人気ブランドとのコラボ品も多数ある。そして、すべての商品は店を運営する聖林公司代表のゲン垂水さんによって吟味される。「トレンドに流されず、物語があるモノばかり」と、服飾評論家の石津祥介さんは評する。同店スタッフの清田(せいだ)直樹さんとともに、奥深いカジュアルの世界を探った。




オリジナル品が8割、海外メーカーに別注も

――ウエスタンシャツ、ジーンズ、フランネルシャツとアメカジの王道がそろい踏みです。

石津「いい店だなあ。マスコミや消費者の流行の物差しに動かされず、ベーシックなアイテムに忠実な品ぞろえです。ボス(垂水さん)独特の物差しで商品を選んでいて、どの世代にも支持されるアイテムがあふれんばかりにあります」

デニムは代表的な商品だ。「僕の入社のきっかけはジーンズでした」と話す清田直樹さん(右)と石津さん

清田「実はオリジナル品が8割程度を占めています。ウエスタンシャツのようなスタンダードな服であればフラップ、スナップボタン、ウエスタンヨークと細部まで忠実に再現して、独自に生産しているのです。海外のメーカーに別注しているものも多いですよ。うちのお客さまは10代から60代までと幅広く、定番品を直しながらずっと着てくださったり、同じものを買い替えたりする方が多い。ですから代表的なアイテムは継続して販売しています。私自身、学生時代に大好きな定番ジーンズをはき続けていました。それが入社のきっかけにもなったのです」

石津「ここのネルシャツは赤×黒の色、チェック柄の大きさも古き良き本物に忠実。だから、いいわけです。ネルシャツは100年以上前に誕生した屋外での作業着。それをアメリカの木こりや農家の人たちが着て、だんだんと広まっていったのでしょう。アメカジアイテムのほとんどが実用着かユニホーム。長年愛用されてきたスタンダードな衣料には、そうした語れる材料が詰まっています」

「この赤×黒がネルシャツの代表柄です。完成度が高いね」

――長い時間をかけて、生活に根ざしたアイテムが残っているんですね。おいそれとは揺るがない歴史を感じます。

石津「もしこのネルシャツの赤×黒の柄の大きさが変わると、それだけで雰囲気が壊れてしまう。今、基本に忠実にきちんと作れるところが少なくなっていますから、ランチのオリジナル品はよく続いているなと思う。そうした昔ながらのものをアップデートしているのがこの店の強みです。典型的なのがネルシャツの丈を長くした女性用のロングシャツ。アメカジのにおいを大事にしながら今ほしいものをぴたりと提案できていますよね」