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加藤和樹、ミュージカルで怪物役 魂を削られる思い

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加藤和樹が2020年1月から東京・日生劇場で上演されるミュージカル『フランケンシュタイン』の再演に出演する。メインキャスト全員が一人二役を演じる本作で加藤は、初演に続いて科学者フランケンシュタインの友人であるアンリと怪物の2役を演じる。再演にかける意気込みや、マルチに活躍する最近の活動について語ってくれた。

加藤は、歌手・声優・舞台と、多彩に活躍するアーティストだ。05年、ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、翌年、CDデビューして以来、テレビドラマ・映画の『仮面ライダー』などの映像作品、さらに、芝居・ミュージカルに出演。アニメの主題歌も歌ったりと、マルチな才能を発揮している。日本武道館や日比谷野外音楽堂などで毎年単独ライブを開催するなど音楽活動にも精力的だ。最近では女性誌で料理に関する連載を持ったり、化粧品のプロデュースも。まずは、加藤に経歴を振り返ってもらった。

デビューのきっかけは、ジュノン・スーパーボーイ・コンテストだった。「デビューして、2時間ドラマなどにちょこちょこ出たりしていたのですが、当時は具体的な目標がなかったんです。やりたいことがわからず、半年くらいで芸能界を離れ、1年半ほど、バイトをしながら生活していました。そんなとき、音楽に出合い、歌を歌いたいという目標ができたんです。ちょうどその頃、今のマネジャーに出会い、ミュージカル『テニスの王子様』のオーディションを受けました。音楽がやりたくて、まずは人前で歌う経験をしようという気持ちでした。出演させていただき、人の前で歌うことの楽しさ……までは当時はわかりませんでしたが、心地よさは体感し、歌をやっていきたいという思いを強くしました。同時に、役を背負わずに歌ったらどんな気持ちになるんだろうなという興味も覚えました」

翌年にはCDデビューを飾る。以来、さまざまなフィールドで活躍しているのは前述のとおりで、ここ4、5年はミュージカル俳優としても注目を集めている。「ライブで歌うのと、ミュージカルで歌うのとでは、歌への向き合い方はまったく異なります。でもどちらも僕にとってなくてはならないものです。舞台で自分以外の人生を生きることで体験した感情が、歌詞を書くときに生きてくるんです。もちろん、自分をさらけ出してお客様とともに空間を作り上げていくライブも大好きです」

この秋から20年初めにかけては舞台の仕事が続く。10月上旬までは、森雪之丞が作・作詞・楽曲プロデュースを手がけたミュージカル『怪人と探偵』に出演。11、12月に東京と大阪で上演されるミュージカル『ファントム』では、城田優とダブルキャストでファントム役を務める。そして、20年1、2月には韓国発のミュージカル『フランケンシュタイン』に出演する。

『フランケンシュタイン』を生み出した韓国のクリエーターは、「韓国発のミュージカルを世界に」の合言葉のもと、"生命創造"への飽くなき探求と愛と友情をテーマに、ドラマチックで流麗な楽曲、大胆な演出を組み合わせ、フランケンシュタイン博士と怪物の物語に新たな命を与えた。

日本では17年に初演され、今回が3年ぶりの再演となる。加藤の言葉を借りれば、「愛、憎しみなど人の持つ、さまざまな感情が混ざり合った、もうひとつのフランケンシュタイン」だ。加藤は、「作品は重いし、複雑ですが、世界観はとてもわかりやすいんです。楽曲が作品の色を表していて、心に届きやすいし、説得力もあります。でもだからこそ、歌い手としては音楽に言葉が負けてしまう怖さもあるんです」と、演じ、歌う立場からの同作の魅力を語る。

初演時の印象をたずねると、「いやあ本当に疲れました!」と端正な顔をゆがませた。「ほかの作品でそんなことはないのですが、この作品に関しては公演後、シャワーを浴びても現実の世界に戻ってこられなかったんですよ。魂を削られる思いでした。通常、ダブルキャストだと、マチネ(昼公演)のあとにほかの仕事を入れることもできるのですが、この作品の公演中は無理でした(笑)。肉体的にではなく、精神的にきついんです」。なぜそれほど消耗するのかは、ネタバレになるので子細な説明は割愛するが、作品を見ればその理由がわかるはずだ。

メインキャストが一人二役を担う同作で、加藤は初演時に続き、アンリ・デュプレと怪物役を務める(小西遼生とダブルキャスト)。アンリは、天才科学者ビクター・フランケンシュタイン(中川晃教・柿澤勇人のダブルキャスト)に命を救われ、親友となる人物だ。さらに2幕ではビクターにより生み出される怪物役を演じる。「日常生活で生物の創造について考えることってあまりないですよね。でもこの作品に取り組んでいるときは、毎日、記憶のよりどころについて考えていました」

1幕後半、アンリが歌う『君の夢の中で』は美しく、壮大な、作品の世界観を体現するアリアだ。その曲について話を向けると、「いやあ、あの曲はやばいです(笑)」と感慨深そうに語った。この曲の旋律が奏でられた瞬間、感情があふれ出るという。「そのなかでお芝居も成立させなければいけないので、苦労しました。でも大好きな曲です」

加藤は日本初演前に、韓国で同作を観劇している。「感動したのと同時に、本当に自分にできるのだろかと不安にもなりました。韓国初演でアンリ/怪物役を演じたパク・ウンテさんも『これはきついよ』と言っていて。楽曲も、一見、簡単そうに思えるのですが、じつは難しいことをやっているんです」

そのパク・ウンテの発声法を知るべく、彼がついているボイストレーナーを紹介してもらい、レッスンも受けた。苦労は多かった。しかし、公演を終えたあとに残ったのは充実感だった。「大変でしたが、得るものも大きかったですね。やればやるだけいろいろなものが見えてきたんです。舞台は日々進化していくものですが、とくにこの作品は初日と千穐楽(公演の最終日)ではだいぶ違う舞台になっていたと思います。とても思い入れのある作品ですし、再演できるのは本当にうれしいです。重く、消耗する作品ですが、稽古場はすごく楽しかったんですよ。また、同じメンバーで芝居を作ることができるのが楽しみです」

物語のキーとなるビクター・フランケンシュタイン/ジャック役、そして、加藤が演じるアンリ/怪物役は、ともにダブルキャストで4人とも初演に続いての出演となる。「演出の板垣(恭一)さんは、演出的にそろえるところはそろえながら、『同じ役柄でも、まったく同じ芝居じゃなくていい』と、自由に役作りさせてくれました。アッキー(中川)とカッキー(柿澤)のビクターはぜんぜん印象が違って、彼に対するこちらの演技も変わってきます。また共演者との関係を深めていきたいです」

20年はデビュー15年目。夏には、過去最多となる全国24カ所を回るライブツアーを予定している。「昨年、ひとりで巡るコンサートツアーをやらせていただき、応援してくださっている方に支えられていることを再認識しました。全都道府県でライブをやることを目標にして、少しでも多くの場所に足を運びたいと思っています。中学生の時、地元の名古屋で行われたL'Arc~en ~Ciel(ラルク アン シエル)さんのコンサートに行ったのですが、目の前にラルクさんが現れたとき、偽者じゃないかと思ったんですよ(笑)。目の前にあこがれのラルクさんが存在していることが信じられなくて。僕も時々、握手会で『本物ですか』と言われることがあるのですが、その感覚をみなさんに味わっていただきたい、そして、音楽を届けていきたいと思っています」

最後に、将来の方向性についてたずねたところ、加藤は少し間をおいてこう答えた。「あまり先のことは考えていないんです(笑)。僕も30代半ば、40歳に向かっていく年齢です。もう若手ではないし、かといって、ベテランでもありません。舞台に関していえば、なかなか難しい年代で、演じることができる役柄も変わってくると思います。そんななか、ひとつひとつの作品にしっかりと取り組み、経験を蓄えて、『この前よりも良かった』と言ってもらえるように取り組んでいきたいですし、また役柄を通して、お客様にどんなメッセージを届けることができるかを真剣に考えています」

(ライター 長谷川あや)

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