心理的安全性の度合い、パフォーマンスに影響
この論文では、1990年代後半、アメリカ中西部のメーカーで行ったフィールド調査の結果を紹介しています。社内の51のチームの心理的安全性を調査したところ、個々のチームによって心理的安全性の度合いがかなり異なっていて、それがチーム全体の学習行動やパフォーマンスに影響を与えていることがわかったのです。
当時、すでにエドガー・シャイン、ウォーレン・ベニス、ウィリアム・カーンなどの経営学者も心理的安全性の重要性を指摘していましたが、この実験でそれをさらに実証する結果となりました。

佐藤 なぜ組織にとって心理的安全性を創出し、「恐れのない」状態をつくることが大切だと思いますか。
エドモンドソン 「恐れ」には2つの種類があります。1つは健全な恐れ。納期を守れるだろうか、競合に勝てるだろうか、このレベルの品質を実現できるだろうかなど、チームが学習し、成長するためにも必要な恐れです。
もう1つは、不健全な恐れ=人間関係に関わる恐れです。この恐れは「他人からどう思われているだろうか」を過剰に心配することから生じるもので、社員の行動に多大な悪影響を及ぼします。不健全な恐れがまん延した組織では、社員は畏縮し、新しいことを提案したり、リスクをとったりすることができません。
不健全な恐れは学習も成長も阻害する
著名な経営学者のウィリアム・エドワーズ・デミングは「結果を出す組織をつくるための14のポイント」を提言していますが、その8番目に「組織から恐れを取り除く」を挙げています。私も同感です。人は不健全な恐れを抱くと、学習できないし、成長もできません。日本流にいうならば、カイゼンもできないのです。
佐藤 心理的安全性を創出する上で、障壁となるものは何でしょうか。
エドモンドソン 大きな障壁となるのがパワー・ディスタンス(権力格差)です。パワー・ディスタンスが大きい文化をもつ国や企業では、心理的安全性を創出するのがより難しくなります。フラット型組織であっても、階層的なピラミッド型組織であっても、変化の激しい現代を生き抜いていくには、心理的安全性を創出するような文化をつくることが不可欠なのです。
佐藤 会社のどの部門にも心理的安全性を創出することが大切だということですか。
エドモンドソン 会社には、既存の仕事を続ける「ルーティン部門」と新しいことに挑戦する「イノベーション部門」があります。
トヨタにある「失敗や問題をすぐに報告する文化」
ルーティン部門において、心理的安全性の創出は不可欠です。それに成功しているのがトヨタ自動車です。トヨタ自動車には失敗や問題をすぐに報告する文化があります。これは心理的安全性があるからこそできることなのです。トヨタの企業文化の根幹には、心理的安全性があり、それがカイゼン活動を推進し、高品質の車をつくることにつながっています。