組織の中の「恐れ」で明暗 ハーバードが見た原発事故ハーバードビジネススクール教授 エイミー・エドモンドソン氏(中)

福島第2原発における津波の状況=東京電力提供
福島第2原発における津波の状況=東京電力提供

世界トップクラスの経営大学院、ハーバードビジネススクール。その教材には、日本企業の事例が数多く登場する。取り上げられた企業も、グローバル企業からベンチャー企業、エンターテインメントビジネスまで幅広い。日本企業のどこが注目されているのか。作家・コンサルタントの佐藤智恵氏によるハーバードビジネススクール教授陣へのインタビューをシリーズで掲載する。リーダーシップを研究するエイミー・エドモンドソン教授は最新刊で、原子力発電所の安全性に関わった2つの事例に注目した。

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佐藤 「恐れのない組織:職場に学習力・イノベーション・成長をもたらす心理的安全性の創出(The Fearless Organization: Creating Psychological Safety in the Workplace for Learning, Innovation, and Growth)」では、東日本大震災に関する2つの事例が紹介されています。1つは、国や東京電力が福島第1原子力発電所(以下、福島第1原発)の地震・津波対策を検討する過程で、数々の重要な警告が無視された事例、もう1つは、福島第2原子力発電所(以下、福島第2原発)の増田尚宏所長(当時)とそのチームが卓越したチームワークで危機的状況を回避した事例です。なぜこの2つを取り上げたのですか。

「恐れに満ちた組織」と「恐れのない組織」

エドモンドソン この2つの事例が対照的だからです。福島第1原発の話は、「恐れに満ちた組織」の決定が日本に悲劇を招いた事例であり、福島第2原発の話は、「恐れのない組織」が日本を救った事例です。

佐藤 まず1つめの2011年以前の福島第1原発の地震・津波対策についてです。著書では数々の地震学者が安全対策の不備を繰り返し警告してきたこと、東京電力が福島第1原子力発電所に最大10.2メートルの津波が来て、押し寄せる水の高さ(遡上高)が15.7メートルになる可能性があることを08年に社内で試算していたことを指摘しています。なぜ警告は聞き入れられなかったのでしょうか。

ハーバードビジネススクール教授 エイミー・エドモンドソン氏

エドモンドソン 心理的安全性が創出されていない組織において、部下は上司から「忠誠心がない」「無能だ」と思われることをことさら恐れます。そのため、上司の意向に沿おうとして、本当はそうは思っていなくとも異論を述べることを控えてしまうのです。ミーティングで問題が指摘されたとしても、その責任者は上司に「問題がありました」とは言いたくない。そしてその上司は、さらにその上司に「問題がありました」とは報告したくない。なぜなら、上司は皆、プロジェクトが計画通りに進むことを望んでいるからです。その結果、現場で指摘された問題や警告は「無視」あるいは「先送り」されることとなります。

人間の力で地震や津波が発生するのを防ぐことができないのはわかります。しかしながら、人間の力で想定される被害に十分に備えることはできたはずです。

東日本大震災が起きるずいぶん前から、数々の地震学者はこの地域に津波が来る危険性や安全対策の不備を指摘していました。しかしながら、それらの警告は無視されました。なぜなら、歴史や数字が示す真実よりも、目の前の人間関係を優先して決断してしまったからです。これは極めて人間的な行動ではありますが、不確実性の高い現代社会においては、多くの問題を引き起こす要因となります。