少しだけ顔を見せてくれたダリオ・プリンチッチさん。フリウリにおける伝説の造り手の一人だ。

20世紀後半に広がった効率重視の工業的なワイン造りに異を唱えるかのようなワインが「ダリオ・プリンチッチ」だ。オーナーのダリオさんはもともと、ブドウ栽培農家。高齢のダリオさんに代わってワイナリーを案内してくれた、めいのカティアさんによると、ダリオさんはある時がんを患い、それを機に自身の健康のことを考えて農薬を使わない有機栽培を始めた。1990年前後のことという。

20世紀後半は農業全般で、農薬の使用に非常に前向きな時代だった。除草剤や殺虫剤は農作業の重労働から農家を解放したものの、様々な副作用も生んだ。それはブドウ栽培においても例外ではなかった。以前、フランス・ブルゴーニュ地方のワイン生産者を取材したことがあるが、ある生産者は農作業で家族が体調を崩したため、使っていた農薬の影響を疑って有機栽培に切り替えたと話してくれた。

農薬使用の弊害はそれだけではない。ブルゴーニュでは、土壌中の有用な微生物の数が激減し、土地が痩せ衰えてブドウの質が低下。その結果、ワインの評判が一時期、大きく落ちた。その反省から、今はできるだけ農薬を減らす取り組みをしている。そうした弊害をいち早く察知し、行動に移したのが、フリウリのナチュラルワインの造り手たちだ。

有機ブドウを使い、天然酵母で発酵させ、酸化や雑菌の繁殖を防ぐ亜硫酸の添加量を最小限にとどめて造るダリオ・プリンチッチのワインはどれもナチュラルワイン特有のうま味にあふれている。フランス・ボルドー地方の主要品種メルロを使った赤ワインも造っているが、熟成中の樽から試飲させてもらった2011年産メルロは、果実の凝縮感と味わいのバランスが素晴らしく、同行したソムリエも思わず感嘆の声を上げていた。

ナチュラルワインはよく、「なるべく人の手を掛けず、自然に任せたワイン造り」とも説明される。だが、実際には、どの造り手も多くの時間や労力を費やし、土壌やブドウが本来持つ自然の力や特徴を最大限に引き出そうとしている。いずれも日本での小売価格は数千円から1万円以上するが、そうしたボトルに詰まった造り手たちのストーリーを知れば、必ずしも高いと思わない人もいるはずだ。フリウリを訪ね、強くそう感じた。

(ライター 猪瀬聖)

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