自らのワイン哲学を熱く語るエヴァンジェロス・パラスコスさん

各国政府によるワインのブランド戦略も、味わいの画一化を後押しした。特に欧州のワイン伝統国で顕著で、イタリアでは1963年にワイン法が制定され、ブドウの栽培方法や最大収穫量、醸造法、アルコール度数などが地域ごとに決められた。味わいがその土地のワインとしてふさわしいかどうかを判断する官能検査もあり、不合格だと、例えば「キャンティ」や「バローロ」といった産地名をボトルに書けない。

この施策はワインの品質保持に一定の役割を果たしたものの、同一地域内ではどのワイナリーのワインも似たり寄ったりの味になり、造り手が個性や創造性を発揮しにくいという弊害も生んだ。パラスコスさんも十数年前、土着品種からオレンジワインを造ったところ、その色や味が土地のワインっぽくないという理由で、官能検査に不合格。しかし、それがパラスコスさんの反骨精神に火をつけ、地域ブランドに依存しないワイン造りに拍車が掛かった。

そんなパラスコスさんのワインは、ラディコンやグラヴネルを手本としているものの、味わいは明らかに違う。現地で試飲したワインはブドウの果皮の成分を抽出するマセレーションの期間が平均して短いため、どれもタンニン(渋み)が比較的少なくフルーティーだ。

「20年間試行錯誤して、やっと適切なマセレーション期間がわかるようになった」と明かすパラスコスさんは、「ワインのことをすべてわかっている生産者なんて一人もいない。毎年が勉強」とも語る。反骨精神は旺盛だが、ワイン造りに関しては極めて謙虚な姿勢がとても印象に残った。

「ヴォドピーヴェッツ」のオーナー、パオロ・ヴォドピーヴェッツさん

やはり日本にファンの多い「ヴォドピーヴェッツ」は土着品種へのこだわりが特に強い。栽培しているのは、フリウリでも稀有(けう)なヴィトフスカと呼ぶ白ブドウ1種類のみ。オーナーのパオロ・ヴォドピーヴェッツさんは「ヴィトフスカはカルソの女王」と言ってはばからない。カルソとはワイナリーがある場所の名前。カルソの土壌は石灰質で、ヴォドピーヴェッツさんは「ヴィトフスカこそが土地の特徴を最大限に表現できる」と信じている。

醸造施設のデザインも目を引く。グラヴネルなどと同様、素焼きのつぼ「アンフォラ」でブドウを発酵させているが、そのアンフォラが埋められている部屋は円形状で小石が敷き詰められ、それ自体がアート作品のようだ。かつて訪れた京都の寺がヒントになっていると言い、「寺の庭園では、人間でなく石が主人公と感じた」と説明する。ワイン造りにおいても、主役は人間でなくあくまでブドウ。そう言わんとしているようだった。

大きな木樽(たる)で熟成中の2017年産のオレンジワインを試飲した。とてもエレガントで心地よいミネラルや塩味を感じ、余韻が非常に長い。ヴォドピーヴェッツさんがこの品種にこだわるのもうなずける。そう思わせるワインだった。

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