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大地の力引き出す造り手の熱意 イタリア自然派ワイン

エンジョイ・ワイン(19)

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イタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州には、ラディコンやグラヴネル以外にも個性的なナチュラルワインの造り手が集う。個性の出し方は十人十色だが、共通する点がある。ワインの味わいの画一化や効率重視のブドウ栽培が招いた環境破壊など、経済のグローバル化や科学の進化が生んだ弊害への問題意識だ。そんな彼らのワインが世界的な支持を得ているのは、日本を含むワイン市場の今後を占う上でも注目に値する現象だ。

フリウリには雄弁な造り手が多い。ワイン造りに関する自らの哲学を一人でも多くの飲み手に知って欲しくてうずうずしている。そう想像した。

「パラスコス」のオーナー、エヴァンジェロス・パラスコスさんもその一人。ギリシャで生まれ、フリウリに移住後はレストランを経営しながら自家用ワインを造っていたが、「ラディコンとグラヴネルを飲んで感銘を受け」、本格的にワインを造り始めた。そのパラスコスさんは、「この辺りは一時期、フランスのブドウ品種を導入したことにより、アイデンティーが失われてしまった」と主張する。

フリウリも含めた世界のワイン産地には、たいてい、その土地固有のブドウ品種がある。ところが20世紀後半、自由貿易の拡大と共にワインの消費が世界的に伸びると、カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネといったフランスの高級ブドウ品種の人気が高まり、多くのワイン産地がこぞって植樹。特徴的な香りを再現できる培養酵母の開発とも相まって、本来地酒だったワインは地域性を失っていった。

各国政府によるワインのブランド戦略も、味わいの画一化を後押しした。特に欧州のワイン伝統国で顕著で、イタリアでは1963年にワイン法が制定され、ブドウの栽培方法や最大収穫量、醸造法、アルコール度数などが地域ごとに決められた。味わいがその土地のワインとしてふさわしいかどうかを判断する官能検査もあり、不合格だと、例えば「キャンティ」や「バローロ」といった産地名をボトルに書けない。

この施策はワインの品質保持に一定の役割を果たしたものの、同一地域内ではどのワイナリーのワインも似たり寄ったりの味になり、造り手が個性や創造性を発揮しにくいという弊害も生んだ。パラスコスさんも十数年前、土着品種からオレンジワインを造ったところ、その色や味が土地のワインっぽくないという理由で、官能検査に不合格。しかし、それがパラスコスさんの反骨精神に火をつけ、地域ブランドに依存しないワイン造りに拍車が掛かった。

そんなパラスコスさんのワインは、ラディコンやグラヴネルを手本としているものの、味わいは明らかに違う。現地で試飲したワインはブドウの果皮の成分を抽出するマセレーションの期間が平均して短いため、どれもタンニン(渋み)が比較的少なくフルーティーだ。

「20年間試行錯誤して、やっと適切なマセレーション期間がわかるようになった」と明かすパラスコスさんは、「ワインのことをすべてわかっている生産者なんて一人もいない。毎年が勉強」とも語る。反骨精神は旺盛だが、ワイン造りに関しては極めて謙虚な姿勢がとても印象に残った。

やはり日本にファンの多い「ヴォドピーヴェッツ」は土着品種へのこだわりが特に強い。栽培しているのは、フリウリでも稀有(けう)なヴィトフスカと呼ぶ白ブドウ1種類のみ。オーナーのパオロ・ヴォドピーヴェッツさんは「ヴィトフスカはカルソの女王」と言ってはばからない。カルソとはワイナリーがある場所の名前。カルソの土壌は石灰質で、ヴォドピーヴェッツさんは「ヴィトフスカこそが土地の特徴を最大限に表現できる」と信じている。

醸造施設のデザインも目を引く。グラヴネルなどと同様、素焼きのつぼ「アンフォラ」でブドウを発酵させているが、そのアンフォラが埋められている部屋は円形状で小石が敷き詰められ、それ自体がアート作品のようだ。かつて訪れた京都の寺がヒントになっていると言い、「寺の庭園では、人間でなく石が主人公と感じた」と説明する。ワイン造りにおいても、主役は人間でなくあくまでブドウ。そう言わんとしているようだった。

大きな木樽(たる)で熟成中の2017年産のオレンジワインを試飲した。とてもエレガントで心地よいミネラルや塩味を感じ、余韻が非常に長い。ヴォドピーヴェッツさんがこの品種にこだわるのもうなずける。そう思わせるワインだった。

20世紀後半に広がった効率重視の工業的なワイン造りに異を唱えるかのようなワインが「ダリオ・プリンチッチ」だ。オーナーのダリオさんはもともと、ブドウ栽培農家。高齢のダリオさんに代わってワイナリーを案内してくれた、めいのカティアさんによると、ダリオさんはある時がんを患い、それを機に自身の健康のことを考えて農薬を使わない有機栽培を始めた。1990年前後のことという。

20世紀後半は農業全般で、農薬の使用に非常に前向きな時代だった。除草剤や殺虫剤は農作業の重労働から農家を解放したものの、様々な副作用も生んだ。それはブドウ栽培においても例外ではなかった。以前、フランス・ブルゴーニュ地方のワイン生産者を取材したことがあるが、ある生産者は農作業で家族が体調を崩したため、使っていた農薬の影響を疑って有機栽培に切り替えたと話してくれた。

農薬使用の弊害はそれだけではない。ブルゴーニュでは、土壌中の有用な微生物の数が激減し、土地が痩せ衰えてブドウの質が低下。その結果、ワインの評判が一時期、大きく落ちた。その反省から、今はできるだけ農薬を減らす取り組みをしている。そうした弊害をいち早く察知し、行動に移したのが、フリウリのナチュラルワインの造り手たちだ。

有機ブドウを使い、天然酵母で発酵させ、酸化や雑菌の繁殖を防ぐ亜硫酸の添加量を最小限にとどめて造るダリオ・プリンチッチのワインはどれもナチュラルワイン特有のうま味にあふれている。フランス・ボルドー地方の主要品種メルロを使った赤ワインも造っているが、熟成中の樽から試飲させてもらった2011年産メルロは、果実の凝縮感と味わいのバランスが素晴らしく、同行したソムリエも思わず感嘆の声を上げていた。

ナチュラルワインはよく、「なるべく人の手を掛けず、自然に任せたワイン造り」とも説明される。だが、実際には、どの造り手も多くの時間や労力を費やし、土壌やブドウが本来持つ自然の力や特徴を最大限に引き出そうとしている。いずれも日本での小売価格は数千円から1万円以上するが、そうしたボトルに詰まった造り手たちのストーリーを知れば、必ずしも高いと思わない人もいるはずだ。フリウリを訪ね、強くそう感じた。

(ライター 猪瀬聖)

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