銀行の持ち株規制緩和、もろ刃の剣(安東泰志)ニューホライズンキャピタル取締役会長

こうした大幅な持ち株規制の緩和が提案される背景には、金融庁の意識の変化がある。昨今の厳しい経営環境下、地域金融機関が今後生き残っていくためには経営改善、事業再生、事業承継、さらには成長戦略など地域企業が直面する経営課題を的確に認識し、必要なアドバイスや適切なファイナンスの提供が求められる。金融庁は厳格な資産査定基準を含む「金融検査マニュアル」を廃止する予定である一方で、銀行にはいわゆる事業性評価に基づく融資を推進することを求めている。事業性評価に基づく融資とは、14年9月に金融庁が公表した金融モニタリング基本方針によると「財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、借り手企業の事業の内容や成長可能性などを適切に評価し、融資や助言を行う」ことだ。

ハードル高い事業会社の活性化

しかし事業性評価を本気で実行するためには、当該企業の事業の流れ(バリューチェーン)と在庫・売掛金・資金などバランスシートの動きがどう連動し、それが損益にどのように影響するかを適時的確に把握できなければならない。企業経営とは本来そういうものだ。例えば経営権を取得して事業承継や事業再生に取り組むプライベート・エクイティ(PE)ファンドでは、融資の返済が可能かどうかという観点だけではなく、その企業の個々の取引によって企業価値がどう変化するかも捉えて経営指導をしている。融資であれば担保や保証で回収すればいいかもしれないが、株式を取得するということは担保も保証もないので、株式価値を向上させるか少なくとも株式価値が下がらないようにしなければならず、極めてハードルが高い仕事になる。銀行が株式を取得するということは銀行員も企業経営ノウハウを持ち、しかも株式を保有している企業の価値を適切に算定できなければならない。それができないのであれば保有株式の時価もわからず、銀行としての適切なリスク管理もできないということになる。

そもそも企業の株主と債権者(銀行)の間には利益相反がある。債権の回収を重視する銀行が経営に関与することが企業価値の向上につながる保証はない。加えて銀行または銀行子会社が株式を保有することは、銀行の経営リスクを増大させかねない。筆者自身も元銀行員であり、現在も多くの銀行員の方々と接しているが、一般的な銀行員のノウハウでは事業会社の株式を適切に評価し管理することは難しいのではないかというのが率直な感想だ。

地域活性化が必要だという事情は十分理解できるが、それならば預金者の虎の子のお金を預かっている銀行に株式を持たせるのではなく、民間独立系のPEファンドの活動をさらに活性化する方策を考え、銀行とPEファンドが協働して取り組めるような仕組みを構築する方がより健全な政策ではないだろうか。

安東泰志
1981年に三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行、88年より、同行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。2002年フェニックス・キャピタル(現ニューホライズンキャピタル)を創業。三菱自動車など約90社の再生案件を手掛ける。東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。事業再生実務家協会理事。
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