「実力ない」悩んだ過去と決別 タニア・モンローさん豪チーフ・ディフェンス・サイエンティスト(折れないキャリア)

2019/11/2

オーストラリアで防衛技術の研究に従事する約2200人の科学者を束ねる「チーフ・ディフェンス・サイエンティスト」に今年3月、就任した。豪国防省の軍事力底上げに向け、優先的に取り組む研究分野を指し示す。100年余りの歴史で、女性が就任したのは初めてだ。

シドニー大で物理学博士号。専門は光工学。豪連邦科学産業研究機構(CSIRO)や南オーストラリア大などで要職を歴任。46歳。

中学3年の時、尊敬できる物理学の教師と出会い、理系の道に進んだ。「女子校だったのが良かった。男子生徒を意識せずに好きな勉強に打ち込めた」

伸び伸び育った女子校育ちの秀才は、大学に入学後カルチャーショックを受ける。試験が終わって「あの問題ができなかった」と肩を落とす自分とは対照的に、男子学生は「ばっちりできた」と自信たっぷり。「私には実力がない」と落ち込んだが、試験結果が発表されると自分の方が成績が上だった。

そんな経験を繰り返すうち、女性に課題があるとすれば「実力うんぬんよりも、自信が持てないことではないか」と気付いた。どんな評価が下るのかと眠れない夜が続くほど不安だった博士論文が国内最優秀に選ばれた時、自信を持てない自分と決別する腹が決まった。「もしも今、10代後半から20代のころの自分にアドバイスできるなら、実力を疑う内心の声なんて無視しなさいと叫びたい」

双子を含む3人の子育てでも、前向きな気持ちを失わないよう努めた。「長時間働けない代わりにチーム作りや優先順位付けに注力し、リーダーとして成長できた。研究で妥協したとは思わない」と言い切る。

苦労して培ったバランス感覚は、今の職務にも生きている。サイバー攻撃や人工知能(AI)の軍事転用といった差し迫った問題に対応しながら、50年先の国防力を構想する。「短期、中期、長期に分けてなすべき仕事を考える習慣が身についている」と話す。

日本の大学医学部で女子受験生を不利に扱う不適切入試が横行していたニュースについては「知っている」と即答した。豪州では大学や大学院でSTEM(科学、技術、工学、数学)を専攻する女子学生の比率が約2割にとどまることが問題となっている。

「最も優秀な人材を採用できないのは組織にとって死活問題だ。能力以外の壁があるなら是正しなければならない」と訴える。

(編集委員 高橋香織)

[日本経済新聞朝刊2019年10月28日付]