相続した土地が人の物に 登記遅れでゆらぐ遺言の効力

写真はイメージ=PIXTA
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相続人同士が遺産分割を巡って争う「争続」を避けるには、遺言を残しておくことが大事だといわれる。しかし、この遺言の「効力」が揺らぎ始めた。7月に始まった改正民法の相続規定(相続法)の影響だ。

相続が起こると被相続人(死亡した人)の財産を法定相続人の間で分ける。遺言がなければ相続人が遺産分割協議で分け、遺言があれば遺言が優先する。しかし、改正民法によって相続登記の順番によっては遺言が優先しないケースが想定されるようになった。

相続登記とは被相続人の不動産の所有名義を取得分に応じて相続人の名義に変更すること。登記すれば不動産の所有権を対外的に主張できる。あまり知られていないが、法定相続人は遺言があったとしても「他の相続人の了解を得ずに相続人全員がそれぞれの法定相続分を登記できる」(司法書士の大貫正男氏)。

具体例を見てみよう。子がいない夫婦の夫が「自宅は全て妻に相続させる」という遺言を残していても、4分の1の法定相続割合をもつ夫の兄は妻より先に法定相続分を登記できる。すると4分の1は夫の兄の名義になるので「売却したり、担保にしてお金を借りたりすることができる」(弁護士の伊東大祐氏)。

そうなると困るのは妻だ。せっかく自分に全てを相続させるとの遺言があるのに最悪の場合、自宅が「持ち分を購入した第三者との共有になる」(弁護士の上柳敏郎氏)からだ。

改正前はそのような不都合は解消できた。伊東氏は「妻が持ち分を買った第三者を訴えれば、勝って全てを自分のものにできた」と話す。最高裁が「遺言があれば遺言が優先する」と判断していたからだ。

ところが改正で最高裁の判断は否定された。改正法では「法定相続割合(このケースでは4分の3)を超える分については登記しないと第三者に権利を主張できない」とした。

こんなケースもあるだろう。父が「自宅を全て長男に相続させる」と遺言で指定したとする。法定相続割合は母が亡くなっていれば兄弟2人の場合、2分の1ずつ。先に次男が法定相続分を登記し、その分を第三者に売却すれば、長男は第三者と自宅を共有せざるを得なくなる。

このような問題の解決策は一つだ。自宅を全て相続させると遺言で指定された相続人は「他の相続人よりも先に全部を相続する旨の登記をすること」(伊東氏)。他の相続人から遺留分(最低限の取り分で通常、法定相続分の半分)を請求される可能性はあるが、金銭で解決できる。図のケースでは夫の兄には遺留分の請求権がないので妻が全て取得できる。

今回の改正について知っているか知らないかで、大きな差が出ることを覚えておきたい。

(後藤直久)

[日本経済新聞朝刊2019年10月26日付]

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