コートは男の秋冬スタイルの要。けっして安易に選ぶべきではない。新作を軸に、「それがなぜ傑作なのか?」をしっかり分析の上、解説。エレガントかつ普遍的なコートたちの“凄み”まで知れば、より間違いのない選択ができるはずだ。
[ コートの基本的分類 ]
まず覚えるべきコートの種類はこちら。今回登場のコートに、“どの型のコートに近いか”を言及しつつ紹介。どれとも近くないものは[Other Type]とした。
01. チェスターフィールド/Chesterfield Coat
元は黒ベルベットの上襟を備えた正装用の長丈外套。近年は、そのウエストを絞った優美なシルエットを踏襲したコート全般を指す。
02. バルマカーン/Balmacaan Coat
襟が小ぶりで多くはラグラン袖。ステンカラーとも呼ぶが、これはStand fall collarの訛り。この語源から行くと襟は倒して着るのが正式。
03. トレンチ/Trench Coat
塹壕(トレンチ)戦用に英国陸軍が採用した防水生地の外套がルーツ。ガンパッチ、腰&袖口のベルトなど機能的ディテールを持つ。
04. アルスター/Ulster Coat
アイルランド・アルスター地方の紡毛地で作られた旅行用の長丈外套。ダブルブレストで上襟が大きいのが特徴。多くのコートの原型だ。
05. タイロッケン/Tielocken Coat
ダブルブレストだがボタンはなく、ガウンのように共地のベルトで前を巻きつけて着用するのが特徴。トレンチの原型として知られる。
06. ダッフル/Duffle Coat
トグルで留める前合わせとフードが特徴の、メルトンなど厚手紡毛地の外套。元は漁師の防寒着で英国海軍が採用したことで広まった。
07. インバネス/Inverness Coat
袖なしコートと丈の短いケープを組み合わせた二重構造の外套。スコットランドのインバネス発祥で、日本では和装用外套として流行。
[ Chesterfield Type ]
■KITON/キートンのカシミアビキューナコート
従来から展開する軽快なスポルベリーノタイプのコートをよりノーブルなピークトラペル仕様とし、かつバックベルトを加えたスペシャルモデル。ヌメるようなタッチのカシミア98%+ビキューナ2%のラグジュアリーな生地も、格上のエレガンスをさらに盛り上げる。 94万円(キートン)
[キートン]にみる“カシミアのその先”
高級コート素材と言えば、多くの人がカシミアを挙げるはず。しかしご覧の一着は、さらにその先を行く。というのもこちらの生地、カシミアにビキューナが混紡されているのだ。念のため補足すればビキューナは南米高地に棲むラクダ科の希少動物で、その毛はカシミアを超える柔らかさとしっとりしたタッチから“神の繊維”と呼ばれてきた。なお今作のビキューナ混率は2%だが、混率は重量が基準のため、これを僅かと思うのは誤り。とくにビキューナは繊維が細くて軽いため、同じ1gでもカシミアより素材分量が多く、混率以上に生地の特性に表れる。このあたりは実際に羽織れば一目瞭然。ラグジュアリーの極みを体感できる特別な一着だ。
[ Chesterfield Type ]
■LARDINI/ラルディーニのウォッシュドカシミア ダブルブレステッドコート
オリーブ色のカシミア100%生地だけでも旬を感じさせるのに、手作業による巧みな製品洗いでさらに今日的なヴィンテージな味をプラス。チェスター型ながら、あえて両腰フラップポケットでカジュアルなニュアンスを高めたさじ加減もさすがだ。 25万8000円(ストラスブルゴ)
[ラルディーニ]にみる“その先のカシミア”
アンコンジャケットの名手として知られるラルディーニは、洗練されたカジュアル表現を昔から得意としてきたが、今作ほど掟破りな一着はないかもしれない。なんとカシミア100%のエレガントなダブルのコートにガーメントウォッシュ(製品洗い)を施したのだ。奇抜かと思いきや、これがじつに素晴らしい仕上がり。しっとり柔らかなカシミアの官能的な風合いを保ったまま、微妙な色ムラやステッチ部分のパッカリングによりヴィンテージな味わいが生じており、細身も貢献して休日のニットスタイルにも抜群に似合う。ピュアカシミアのコートといえど、気張らずあくまでさりげなく着こなしたいと考える人には、格好のチョイスとなろう。
[ Chesterfield Type ]
■CARUSO/カルーゾのシングルチェスター
ヘリンボーン柄のベージュ生地は非常に柔らかく、軽い仕立てと相まって程よくゆとりを確保したシルエットをより優美に見せる。一番下のボタンから裾までの長い丈感もエレガントなコート姿に貢献。生地はウール80%+ナイロン20%。 14万円(ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店)
[カルーゾ]にみる“紳士のゆとり”
コートは面積が大きいアイテムだけに、シルエットのちょっとした違いで印象ががらりと変わる。それを改めて教えてくれるのがカルーゾだ。チェスター型ながらボディには腰のしぼりがほとんどなく、パッドを排した肩もややドロップ気味。結果とても新鮮なムードを醸し出している。とはいえ流行のオーバーシルエットほどのゆったり感はなく、今までベーシックなシルエットのコートを着用してきた大人もトライしやすいのもいい。紳士的佇まいを崩さない中で今の気分を愉しめる、絶妙バランスの一着と言えるだろう。