ポルシェ初のEV「タイカン」 加速力に最上の快適さ
ポルシェ初のピュア電気自動車「タイカン」に試乗。オーストリア・インスブルックからドイツ・ミュンヘンまでの約635kmの道のりで、新世代のパワートレインを手にした"最新のポルシェ"は、どんな世界を見せてくれたのだろうか。
下された"ミッション"
それは長い旅だった。
ポルシェは2015年のフランクフルトショーで初のピュアEVとなるコンセプトカー「ミッションE」を発表する。量産されれば世界初となる800V系の駆動システムを有するほか、600PSを上回るパワーと500kmを越す航続距離、3.5秒を切る0-100km/h加速タイムなどのターゲットがこの時点で示された。
発表からわずか3カ月後の2015年12月にポルシェの経営陣は"ミッションE"の量産化を決定。2018年には量産モデルの名称がタイカンであり、2019年より生産が開始されることが明言される。
実は、われわれメディア関係者にとっても国際試乗会に参加するまでの道のりは長かった。2019年8月のテクニカルワークショップ(中国・上海)、9月のワールドプレミア(中国・福州)を実施した後、9月下旬ないし10月上旬にヨーロッパで試乗会が行われることがあらかじめ告げられていた。この間、私たちはタイカンへの期待を高めつつ、ジリジリするような思いでそのステアリングを握る日がやってくるのを待っていたのだ。
もうひとつ興味深いのが、今回の試乗会がポルシェにとっても長丁場であった点にある。ツアーの一行は9月半ばにノルウェーのオスロを出発。9つの国をまたぎ、18日間かけてドイツ・シュトゥットガルトにゴールするという行程で、総走行距離は6440kmに達する。これを11の日程に分割し、さまざまな国から招いたメディア関係者に試乗させるというのがツアーの全体像なのである。
そしてわれわれ日本チームには、このうちオーストリア・インスブルックからドイツ・ミュンヘンまでの635kmを9月30日と10月1日の2日間で走破する"ミッション"が与えられた。
「ターボS」と「ターボ」との違い
試乗会に用意されたのは「ターボS」と「ターボ」の2グレード。装着タイヤは、ターボSが21インチの「グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック3」、ターボが20インチの「ミシュラン・パイロットスポーツ4」だった。ブレーキは、キャリパーがフロント:10ピストン、リア:4ピストンとなるのは共通ながら、ディスクはターボSがセラミックコンポジット(PCCB)でターボがサーフェイスコーテッド(PSCB)と差がつけられる。オーバーブースト時の最高出力はターボS:761PS、ターボ:680PSとなるものの、通常時は625PSで同一。試乗会の運営スタッフからも「ターボとターボSとの差はまずわからないはず」と予告されていたが、タイヤとブレーキの違いを除けば、動力性能を含めて両グレードの差はまったくといっていいほど感じられなかった。
そこで先にタイヤとブレーキの印象について述べれば、ハーシュネスは21インチのイーグルF1でも不満に思わなかったが、やはり20インチのパイロットスポーツ4のほうが当たりは柔らかくて快適。路面上をスムーズに転がっていくという印象でもミシュランがグッドイヤーを大きくしのいだ。グリップ限界が近づいたときに早めにそのことを知らせる特性に関しても、例によってグッドイヤーよりミシュランのほうが良好だった。
ブレーキは、ストローク初期における減速Gの立ち上がり方がターボSはやや神経質で、ターボのほうが穏やかに感じられたが、タイカンは0.4Gまでの制動を回生ブレーキのみで行うため、これがブレーキディスクの特性をそのまま反映したものかどうかは不明である。
最も快適なポルシェ
前項ではタイヤとブレーキの違いをあえて強調して表現したが、全般的にいえばタイカンの乗り心地は恐ろしく快適である。路面からゴツゴツした感触が伝わることはほとんどないのに、ボディーは速度域を問わずフラットに保たれる。これには、「カイエン」や「パナメーラ」にも装備される3チャンバー式エアサスペンションが大きく貢献しているはずだが、タイヤに強い衝撃が加わったときに2モデルで感じられる微振動がかすかに残る傾向はタイカンでは認められなかった。続いて「911」との比較で述べれば、ボディーや足まわりの剛性感に関しては911に匹敵するレベルにあるが、フラット感については2900mmと長いホイールベースを有するタイカンのほうが明らかに有利(タイプ992のホイールベースは2450mm)。したがって総合的な乗り心地でいえばタイカンが現ポルシェラインナップのなかでトップというのが私なりの結論である。
ハンドリングはポルシェらしく強い接地性と優れたスタビリティーが感じられるもので、安心感が強い。ここに、EVならではの低重心設計が加わるのだから、素早く左右に切り返すような際の俊敏性でもまったく不満を覚えなかった。685kmの試乗コースは、道幅の狭い一般道が中心で思いきり攻めるチャンスはあまりなかったが、それにしてもタイヤが滑り出すような領域にはまるで近づけなかったので、グリップレベルは文句のつけようがない。ちなみに速度無制限のアウトバーンでは220km/hまで試したものの、ここでもポルシェらしい無類の安定感を示したことを付け加えておきたい。
新時代のスポーツカー
上海のポルシェ・エクスペリエンスセンターで行われたテクニカルワークショップでは、例によってテストドライバーによる同乗走行も体験できたが、ローンチコントロールを用いた急発進ではそれこそ首がうしろにのけぞるようなダッシュ力を見せつけてわれわれを驚かせた。
もっとも、そんな強引な運転をしない限り、路上におけるタイカンは実に従順で扱いやすかった。EVらしく発進は滑らかで、市街地におけるスピードコントロールも容易。リアモーターに組み合わされている2段自動変速機構は、インスブルックに至るまでの6000km以上の走行でかなり痛めつけられてきたのか、軽いシフトショックやバックラッシュが感じられる個体もあったが、われわれが知るポルシェクオリティーに照らし合わせればこれらが理想のコンディションでないことは間違いなく、本来であればもっとスムーズな動作を示してくれるはず。なお、ドライビングモード切り替えでノーマルを選べば2速発進となるので、このシフトショックからも開放されることを付け加えておきたい。
ノーマルモードのもうひとつのメリットが、スロットルオフ(という言い方が適切かどうかはさておき……)時の回生ブレーキが完全にオフになる点。このため、駆動力のオン/オフに伴う加速度の段差がなくなり、よりスムーズに走行できた。
もちろん、スポーツモードもしくはスポーツ+モードにすればタイカンの走りはさらに活発になるが、そこまでのパフォーマンスが求められるケースはまれだろう。
もうひとつ強調しておきたいのがブレーキフィーリングが良好なことで、前述した0.4Gを超える領域までさまざまなブレーキングを試したが、ブレーキペダルの踏力が変化したりポジションがすっと移動したりすることは皆無。つまり、機械式ブレーキと回生ブレーキの比率が変わってもそのことをドライバーが意識するケースは一度もなかったのである。もちろん、ペダルの剛性感は文句なし。ブレーキフィーリングにこだわるポルシェの姿勢はEVでも貫かれたといえる。
タイカンはあらゆる意味でわれわれの期待を上回り、スポーツEVとしての新たな境地を切り開いた。いや、あえてEVと断るまでもない。タイカンは間違いなく「新時代のスポーツカー」だ。その意味において、電動化を巡るポルシェの旅はまだ始まったばかりともいえるだろう。
(ライター 大谷達也 Little Wing)
テスト車のデータ
ポルシェ・タイカン ターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4963×1966×1381mm
ホイールベース:2900mm
車重:2305kg(DIN)
駆動方式:4WD
モーター:永久磁石同期式電動モーター
システム最高出力:680PS(500kW)
システム最大トルク:850N・m(86.7kgf・m)
タイヤ:(前)245/45R20 103Y XL/(後)285/40R20 108Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
一充電最大走行可能距離:450km(WLTPモード)
ポルシェ・タイカン ターボS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4963×1966×1378mm
ホイールベース:2900mm
車重:2295kg(DIN)
駆動方式:4WD
モーター:永久磁石同期式電動モーター
システム最高出力:761PS(560kW)
システム最大トルク:1050N・m(107.1kgf・m)
タイヤ:(前)265/35ZR21 101Y XL/(後)305/30ZR21 104Y XL(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック3)
一充電最大走行可能距離:412km(WLTPモード)
[webCG 2019年10月23日の記事を再構成]
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