動画やSNSの活用で変える 職場のマニュアル再生術『「マニュアル」をナメるな!』 中田亨氏

「セーフティーネットとしてもマニュアルは欠かせない」と語る中田亨氏

「マニュアルに従ってさえいれば間違いない」といった形骸化を避けるのは、マニュアルの価値を保つうえで欠かせない取り組みとなる。機器の操作ボタンやケーブルに、シール印刷機で印字した「とにかく押すな」「絶対抜かないで」などの警告を貼り付けてあるケースは珍しくないが、「理由を理解しないまま、作業に落とし込まれると、改善の余地が減る。思考停止に陥らないよう、不断に見直したい」(中田氏)。前提条件が変わって、無意味になったマニュアルが「亡霊」として残る事態は好ましくない。

作業ミスを減らし、効率を高めるのがマニュアルの目的と思われがちだが、メリットはほかにもある。顧客に向けて、商品・サービスの品質を保証するツールになる点は、見逃せない働きだ。「担当者が各自ばらばらに動くと、悪しき裁量主義に陥りかねない。企業・組織体として最低限の枠をはめる必要がある」。営業職でも値決めや条件設定などを個人が勝手に判断すると、トラブルを招きやすい。社外からの批判や不満に「あの人が勝手な判断でやった」という言い訳は通じない。

普段からのマメな振り返りが大切

だが、箸の上げ下ろしレベルまで、事細かにルールを決めるのは、必ずしも効率アップにつながらない。仕事ぶりを管理する意識で、がっちり枠をはめてしまうと、マニュアルが働き手の意欲をそぐ心配が出てくる。「流れ作業の工場で、完全な単純作業を強いると、作業者のメンタルに悪影響をもたらしやすい。やりがいや創造性を適度に織り込むのが上手なマニュアルづくり」と、中田氏はアドバイスする。最低線をマニュアルで設定して、創意工夫を引き出す仕組みが望ましい。

いざマニュアルを書こうと思うと、盛り込むべき項目をうまくまとめきれないものだ。とりわけ、ホワイトカラー職場では対人業務が多いので、工場の作業工程表のような、下敷きに使える資料が乏しい。でも、業務メールや日報、企画書などの手持ちドキュメントを見返すと、当時の失敗や苦労を思い出しやすく、注意点を拾い出しやすくなる。「普段からメールや業務SNSで問題点や気づきを共有しておけば、振り返りチェックもしやすくなる」(中田氏)

すべての業務を見渡して、留意点を洗い出そうと試みると、かえって意識がぼやけてしまう。中田氏がすすめるのは、「上流・中流・下流の3カ所ぐらいのチェック」。これだけは決めておかないと、先々に苦労するといった、節目のチェックポイントだけを抜き出せば、「大失敗は避けやすくなる」。詳細で膨大なマニュアルは、読み込む意欲をなえさせてしまいやすい。分量が多いと、使い勝手にも難がある。初心者が使える、ほどほどのゆるさ・分量が肝心だ。

目的は「勤め先に利益をもたらす」こと

昭和の職場では電話が主役だったから、上司や先輩の応対も周りにかなり聞こえていた。部下や後輩は「そういう物言いもあるのか」「うまい切り返しだ」など、先達の技を盗むチャンスがあった。しかし、電子メールや携帯電話が普及して、仕事は秘密性が強まった。メールの書き方すら、チーム内でまちまちで、「昭和の時代よりも、マニュアルでノウハウを共有する意味が強まっている」(中田氏)。昔に比べ、共有マインドが高まり、グループウエアも進化しているのは、生きたマニュアルづくりを助けてくれる。

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