動画やSNSの活用で変える 職場のマニュアル再生術『「マニュアル」をナメるな!』 中田亨氏

「伝わる」マニュアルならチームも強くなる。画像はイメージ=PIXTA
「伝わる」マニュアルならチームも強くなる。画像はイメージ=PIXTA

どこの職場にもマニュアルらしきものはあるが、中身も出来栄えもまちまちだ。著書『「マニュアル」をナメるな!』(光文社)を書いた中田亨氏は「マニュアルは業務効率を高め、ミスを減らすのに役立つ、職場の宝」とマニュアルの磨き上げをすすめる。たくさんの企業・組織で秘伝のマニュアルを調べてきた中田氏に「いいマニュアル・悪いマニュアル」の違いを聞いた。

書類仕事でも高まるマニュアルの重要性

ちょうど20年前の1999年、茨城県の東海村で臨界事故が起きた。作業員がバケツを使っていた事実は、運用ルールからの逸脱ぶりが世を驚かせた。彼らは作業効率を高める目的から、独自のマニュアルで核物質を扱っていた。様々な企業や組織を訪ねて、内部マニュアルを見てきた中田氏は「マニュアルの不備は大きなトラブルが起きるまで、明らかにされない性質がある。それぞれが抱え込んでいるせいで、マニュアルの品質が上がりにくい」と、構造的な問題点を指摘する。

マニュアルと聞くと、工場での作業や飲食店の接客などを思い浮かべやすいが、「今は工場でもボタン操作と監視が主な業務で、むしろ事務作業でのマニュアルが重要になっている」(中田氏)。手続きが多いと、事務作業も増える。「地方自治体は事務仕事のかたまり。病院や金融も書類仕事は多い」という。ただ、事務作業は個人やチームが個別に取り組むことが多いので、マニュアルの共有が進みにくく、「企業・組織ごと、個人・チームごとのばらつきが大きい」という。

職場で最も身近なマニュアルに、引き継ぎ資料がある。前任者が後任に申し送る手引きだが、不出来な場合が多い。「異動まで残り2週間といった差し迫ったタイミングで書くうえ、言語化しづらい内容を省いてしまいがちで役に立たないマニュアルになりがち」(中田氏)。後任がゼロから学び直すのでは、業務効率が悪すぎる。しかし、異動のはざまで済ませる事情から、引き継ぎの出来は、人事考課の対象になりにくく、丁寧な引き継ぎ資料を用意するインセンティブは低い。

中田氏が提案する、手軽で有用な引き継ぎ資料は「暦と用語集」の2点だ。暦は手帳の抜き書きや電子メールの抜粋で構わない。「1年のどの時期にどんな業務をこなしたかが分かれば、事前の計画が立てやすい。大事なイベントの準備忘れも防げる」。用語集の方は隠語や業界用語、略語程度でも、話に取り残される事態を防ぐうえで役立つだろう。「業務をきっちり引き継ぐ」という目標を捨てて、「次の人が大失敗しない」という目的に切り替えれば、最低限、伝えるべき中身もまとめやすくなると、シンプルで効果的な引き継ぎを促す。

大きな失敗を避けるセーフティーネット

マニュアルをあえて整備したがらない人もいる。「自分の仕事を奪われないよう、ブラックボックス化したがる傾向は昔からある」(中田氏)。「芸は盗め」といわんばかりの、かたくなな態度も珍しくなかった。しかし、こんな態度が通用したのは、人の流動性が低かった時代の話だ。転職が当たり前になった今、「マニュアルを介したチームワークは必須の働き方になりつつある」。ノウハウの共有に力を貸さない人は、居場所を失いかねない。不正につながりかねないブラックボックス化や属人化を防ぐうえでも、定期的なマニュアル作成は有益だ。

転職や中途採用が増えると、全く別の経験を持つ人をチームに迎えることが増える。当然、予備知識が十分ではないので、マニュアルは仕事環境を保障する意味からも大切になってくる。「大きな失敗を避けるためのセーフティーネットとしてもマニュアルは欠かせない」(中田氏)。ニューカマーは職場の常識を知るはずもないのだから、現場だけで共有されている「常識」を頼みにするのは危うい。

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