2019/11/1

ビリギャルもう1回勉強するよ

――確かに「昔は良かった」なんていう人がいるけど、明らかに私たちは文明の発展によって幸せになってきている。そしていよいよ働かなくて良くなる時代が来たら、私たちは何するんだろう。私ずっとNetflix見ていそう。

「ずっと絵を描くとか本を読むとか好きなことができる。人間が人間らしい生活をできるような世の中にするため、AIが貢献してくれるという考え方もできるんです。僕くらいの世代は子どもの頃から、男は仕事をするんだと言われて育ったんだけど、それも一種の偏見。仕事をしなくても食べていけるようになったら、違う価値観が育って、もしかしたら人類はさらに発展するかもしれないです」

――無理に働かなくてもよくなったら、なんのために勉強するのでしょう?

「今は大人になって食べていく力をつけるために教育があるといわれているけれど、働かなくても食べていける時代になったら、勉強して自分を高めるモチベーションを人類が持ち続けられるかわからないです。僕はそれでも人間は自分を高めると信じたいんだけど、絶対に怠惰な方向に流れると主張する人もいる」

――ドラえもんでいったら、暗記パンだっていらないもんね。そしたら、みんながのび太になっちゃう。

「怠惰なのび太になることを心配する人もいる」

――でも、とても平和そうですね。

「そう、怠惰かもしれないけど誰も争わない。戦争がなくなるかもしれない。AIが支配する未来は暗黒だという考え方がある一方で、AIに支えられて戦争しなくなるなら、それは天国だという考え方もあるわけです」

――私は講演などで「ロボットにはできなくて、人間にしかできない能力を今のうちに伸ばそう」って話すんです。具体的には思いやりとかおもてなし、ワクワクすることみたいなことなんだけど、もしもロボットにも心が宿ったら、人間にしかできないものって何が残りますか?

「それは正直言って僕もわかりません。鉄腕アトムは『美しい』がわからないとイジイジする場面があるんですよ。それでお茶の水博士にそういう感覚を入れてほしいと頼むんです。でもね、感情回路を入れるとアトムは弱くなっちゃう。こいつは悪いからパンチを打とうと思うんだけど、痛いかなとかこいつにも家族がいるんだよなとか考えるようになってしまう。それで、弱くなっちゃうから感情回路を外すというシーンがあるんです」

――なにそれ切ない。鉄腕アトムってそんなに深いお話だったんですね。

「AIには本能がないんですよ。生存本能もない。死の概念もない。死の概念がないと本当の喜びはないと主張する哲学者もいて、AIはこの点で人間と根本的な違いがあるわけです。それが、人間の行動とAIの行動にどんな違いをうむのか。正直、今のAI研究ではまだわかりません。AIって突き詰めると哲学になるんです。人とは何かという問いが常にある」

――深いなあ。これから学生たちへの講演で今日聞いたお話をすることにします。先生、これだけは伝えたいってこと、ありますか。

「AIは友達だって、伝えてください」

松原仁さん
1959年東京生まれ。1981年東大理学部情報科学科卒業。1986年同大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。工学博士。同年通産省工技院電子技術総合研究所(現産業 技術総合研究所)を経て2000年公立はこだて未来大学教授。2016年公立はこだて未来大学副理事長。人工知能、ゲーム情報学、観光情報学などに興味を持つ。 著書に「コンピュータ将棋の進歩」「鉄腕アトムは実現できるか」「先を読む頭脳」「観光情報学入門」「AIに心は宿るのか」など。 元人工知能学会会長、元情報処理学会理事、観光情報学会理事。未来の公共交通をITで創造することを目指す、未来シェア(函館市)の社長も務める。
小林さやかさん
1988年生まれ。「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話」(坪田信貴著、KADOKAWA)の主人公であるビリギャル本人。中学時代は素行不良で何度も停学になり学校の校長に「人間のクズ」と呼ばれ、高2の夏には小学4年レベルの学力だった。塾講師・坪田信貴氏と出会って1年半で偏差値を40上げ、慶応義塾大学に現役で合格。現在は講演、学生や親向けのイベントやセミナーの企画運営などで活動中。2019年3月に初の著書「キラッキラの君になるために ビリギャル真実の物語」(マガジンハウス)を出版。4月からは聖心女子大学大学院で教育学を研究している。