働く犬に遠隔地からでも指示 振動ベストが開く可能性
イスラエルのネゲブ・ベン=グリオン大学の研究チームが新開発したのは、バイブレーター内蔵の犬用ベストだ。これを犬が着用すれば、聴覚的、視覚的な合図を出さなくても、振動に従って指示通りに回転したり、体を伏せたり、前進、後退したりできる。
2019年7月に東京で開催された「IEEEワールド・ハプティクス・カンファレンス」で、ベン=グリオン大学のチームは研究成果を発表し、バイブレーターの振動は声による指示と同じくらい効果的だと報告した。
「ハプティクス」とは触覚に関わる技術のこと。研究を率いたヨアブ・ゴラン氏は、振動する犬用ベストには実用的かつ重要な用途があると説明する。
「働く犬たちとのコミュニケーションは今も、視覚的、聴覚的なものが大部分を占めている」と、ゴラン氏らがカンファレンスで発表した論文に書かれている。
しかし、救助犬や探知犬はしばしば、がれきの下や狭い空間など、指示する人が見えないところや、人の声が届かないところで働くことがある。遠隔操作できるバイブレーター内蔵のハプティック・ベストを着用していれば、そんなときでも、犬に指示を出せるというわけだ。
また、振動による指示は音を立てられない状況にも適している。
警察犬や軍用犬が騒々しい場所で任務にあたる場合も、ハプティック・ベストは有効だろう。例えば、銃声が鳴り響く交戦地帯では、声によるコミュニケーションは難しい。「航空機のごう音が聞こえるような状況では、人も犬もイヤーマフで耳を守らねばなりませんから」ゴラン氏は話す。
さらに、振動は言語と無関係なことも利点だ。ハプティック・ベストを着せれば、犬が理解できる言語と関係なく誰もが指示を出せる。それだけではない。犬の中には、特定の飼育係やトレーナーの指示にしか従わない犬もいる。だが、振動で指示を伝える方法なら、誰の指示にも反応する可能性も期待されている。
振動付きベストの可能性はまだある。言葉が不自由な飼い主にとっても、振動は犬とコミュニケーションを取る新たな手段になるだろう。また、耳が不自由な犬であっても、ベストが意思疎通の助けになりうる、とゴラン氏は期待を寄せている。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2019年7月11日付記事を再構成]
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