ほめるだけではダメ 子育ての極意が詰まった禅の言葉
名僧・松原泰道を祖父に持ち、東京都世田谷区野沢にある「龍雲寺」第十二代住職を務める細川晋輔さん。2歳の娘さんを持つパパでもあります。龍雲寺は「臨済宗」という禅宗のお寺です。禅宗の長い歴史の中で、多くの禅僧たちが「心を調えるために」伝えてきた言葉は「禅語」と呼ばれています。「こんなとき、どうしたらいいのかな」。子育てにちょっと戸惑いを感じたときに、「心のサプリメント」として効く禅語を紹介していきましょう。
こんにちは。皆さん、いかがお過ごしですか?今年息子が生まれ、私は二児の父になりました。出産で妻が入院していた5日間、私と長女と2人きりで過ごしたのですが、いやあ、濃厚な5日間でした(笑)。
私は今まで妻と一緒に子育てをしてきたつもりだったのですが、いざ妻が家からいなくなってしまうと、2歳の娘は「おかあさん!」と言って泣きじゃくるばかり。ど、どうしよう。やっぱりお父さんだけじゃダメ? ダメ。あ、そう。ダメか……。娘からのダメ出しの嵐にちょっとくじけそうになりましたが、とにかく毎日ひたすら娘と遊びました。そしてなんとか妻の留守を乗り切りました。
子どもがだんだん大きくなってくるにつれ、子育ては本当に難しいなと思うことが多々あります。最近特に思うのは、子どもに自信を持たせてあげることはとても大事だけれど、それが「甘やかし」にならないよう、気をつけないといけないなということです。
「わあ、えらいね」「すごいよ」「こんなこともできるね」。子どものことは一生懸命、ほめてあげたい。でも「親がほめるばかり」ということによって、子どもが自分を「なんでも自分でできちゃう」「いつでもみんなが受け入れてくれる」特別な子どもと勘違いして育っても困りますよね 。
すべて自分の力だけでできる、と調子に乗らせない
子どもの自信を育てることは大切なことです。でもそのとき同時に教えてあげないといけないのは「あなたが今そうやっていろいろなことができるのは、みんなの協力があってこそなんだよ」ということです。
「脚下照顧(きゃっかしょうこ)」という禅語があります。「自分の足元をきちんと見なさい」という意味です。何でも自分の力だけでできているわけではない。 まわりにいるみんなのおかげで、与えられた環境が恵まれているおかげで、今の自分があるんだよ。うぬぼれたりしてはいけないよ。調子に乗ったりしてはダメなんだよ。子どもが大きくなる過程で、私もこの禅語は自分の子どもたちにきちんと伝えていこうと思っています。
私の祖父・松原泰道禅師も100歳のときにこう言っていました。「メガネをかけても文字が見えなくなることがある。そんなときに部屋の明かりを強くしてもらうと、また文字がはっきり見えて読めるようになる。どんなにいい目があっても、そしてどんなにいいメガネがあっても、まわりが暗かったら文字は読めないよ。文字を読めるのは、照らしてくれる明かりがあってこそなのだよ」と。
それと同じことで、人はどんなにすぐれた能力を持っていても、まわりからサポートしてくれる人間がいなかったら、ひとりで能力を伸ばしていくことは絶対にできません。これはいくつになっても言えることですが、ものごとがうまくいったとき、自分だけで才能を開花させた……などと思うのは大きな間違いです。私たち大人も気を付たいものですね。
子どもに向き合うときはがっつりと
子どもというものは本当に、まわりにどんな大人がいるかによって未来も大きく変わってきます。私も長男の寝顔を見ていると、一段と「責任」というものを感じます。
子どもと向き合うときは「正念相続(しょうねんそうぞく)」の心が大事かもしれません。正念相続という禅語は、正しい念を続けると書きますね。「念」という字は「今」の「心」と書きます。つまりこの禅語は 「正しい今の心を持ち続けなさい」「今目の前にあることで心を充満させなさい」という意味なのです。
先日とある、マインドフルネスの専門家の方に「子どもといるときはマインドフルネスにならないといけないよ」と助言いただいたのですが、まさしくそのとおりだと思います。
仕事をしながら子育てをしていると、家にいてもついつい仕事のことを考えたり、子どもを抱っこしながらもスマホをいじったり……なんてこともありがちですが、子どもと向き合うときは本当にがっつり子どもと向き合わないといけませんね。
多くのお父さん方を、私と一緒にしてはいけないと思うのですが、男は不器用ですからね。子どもとどう接したらいいのか分からなくておたおたしてしまったり、オンとオフの頭の切り替えが上手にできなかったりすることも、女性に比べて多いのではないかと思うのです。しかし子育ての時間は、もう二度とは戻ってきません。今目の前にいる子どものことだけに集中する姿勢は、やはり子どもにも伝わるものだと思います。
自戒の意味もこめて、私は最近、娘と徹底的に遊ぶ時間を持つようにしました。しかしおかしなもので、オヤジである私が全力を傾けて遊ぶと、結構早めに飽きてくれます(笑)。なんだか、うれしいような、寂しいような。こんな複雑な気持ちも、いつかは良い思い出に変わってくれるのでしょうか。
(聞き手 赤根千鶴子)
[日経DUAL 2019年6月10日付の掲載記事を基に再構成]
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