日経Gooday

先生、ロカボ的に醸造酒はNGなんでしょうか?

「いえいえ、そんなことはありません。醸造酒だって飲んでもいいんです。先ほども触れたように、1食トータルで40g以内に抑えればOKです。醸造酒の中では、ワイン(スパークリングを含む)は糖質量が低いという特徴があります。もちろん銘柄にもよりますが、赤でも白でもスパークリングワインでも、3杯程度飲んでもおよそ5g程度です。飲み過ぎなければ、あまり気にせず楽しめると思います」(山田さん)

「ワインを選ぶ際には『辛口』と表示されているものを選ぶといいでしょう。スパークリングワインの場合は、『extra brut』『brut nature』などと表記があるものが安心です(いずれも極々辛口という意味)。ただしデザートワイン、貴腐ワイン、そしてアイスワインはいずれも甘口で、糖質がとても多いので、飲むなら少量に抑えましょう」(山田さん)

先ほどのグラフを見ると、確かにワインは醸造酒の中では糖質が低めだ。それに比べ日本酒は100g当たり3.6~4.9gと赤ワインの3倍程度の糖質が含まれているではないか。食後血糖値を気にする人は、日本酒に手を出さないほうがいいのだろうか?(涙)

「糖質面から見れば、もちろん糖質が少ないお酒がいいに越したことはありません。でも好みや、食べ物との相性もあります。日本酒など糖質が多めのお酒を飲む際は、おつまみで糖質量を調整すればいいんです。糖質が多めの日本酒でも、1合に含まれる糖質は7~9g程度です。食事の糖質をうまくコントロールすれば、十分に楽しめますよ」(山田さん)

なるほど。寿司と日本酒の組み合わせなどとなると一気に糖質の制限量をオーバーしてしまいそうだが、他のおつまみであれば工夫次第で何とかなりそうだ。

このほか、低糖質あるいは糖質ゼロの発泡酒、カクテル・チューハイなども上手に活用してほしいと山田さんは話す。「酒造メーカーは現在、売れ筋商品である低糖質(もしくは糖質ゼロ)のお酒の開発に大きな力を注いでいます。味もどんどんおいしくなっています。合成甘味料を使っていると『体に悪いのでは…』と心配する方もいらっしゃいますが、日本で認められている合成甘味料は、安全性が確認されており、神経質になる必要はありません。血糖値も上げません」(山田さん)

お酒は食事と一緒に楽しむもの、お酒だけを飲むのはNG

左党の中には糖質を気にするあまり、おつまみを食べず、酒ばかり飲んでいる人が少なからずいる。実際、そういう人を見ると、みるみるうちに痩せていくのだが、健康面が心配である。

そう話すと、山田さんは「お酒は食事と一緒に楽しんでください!」と強く話す。

「お酒は、お酒だけで飲むのではなく、食事と一緒に楽しむものです。お酒だけを飲み、酔うことを目的にすると、健康を損なう飲み方になる可能性があります。一方で、食事とともにお酒を飲めば、血糖値の上昇を抑える『体にいい飲み方』になります」(山田さん)。フランスの食文化では、食事とワインとの組み合わせ(マリアージュ)を大切にするが、それは健康面でも理にかなったことなのだと山田さんは話す。

さらに、「前編でお話ししたように、それによって血糖値を下げることが分かっています。太ることを気にして、お酒単体で飲む方もいらっしゃいますが、これを続けていて、昏睡状態など重篤な症状を誘引するアルコール性低血糖を生じた方もいます。アルコール性低血糖を防ぐためにも、おつまみを一緒にとったほうがいいのです」(山田さん)

先ほど、蒸留酒は糖質がほぼゼロだと紹介したが、ウイスキーなどの強い酒を単体で飲み続けるのはお勧めできないと山田さんは話す。「12カ国の35~70歳の成人、約11万5000人を対象にした、アルコール消費と心血管疾患、がん、外傷、死亡率などとの関係性を調べたコホート研究(Lancet. 2015;386:1945-54.)から、強いお酒(高アルコールのお酒)を飲む人は、ワインやビールなどの醸造酒を飲む人よりも、死亡率、脳卒中、がん、外傷などのリスクが高いことが明らかになっています」(山田さん)

写真はイメージ=(c)Brent Hofacker-123RF

そういえば若い頃に泥酔し、転んで靭帯を痛めた際に飲んでいたのはウイスキー単体だったっけ……。しかもロックでガンガン。

山田さんは、「蒸留酒を飲むのなら、炭酸で割ったハイボール、または水割りにするといいでしょう」とアドバイスする。確かに、ウイスキーにしても、焼酎にしても炭酸で割るハイボールが人気だ。蒸留酒でも、割って飲めば食事とも合わせやすい。

さて、お酒については、“酒量”に触れないわけにはいかないだろう。前編で紹介したように、お酒が血糖値の上昇を抑える効果が期待できるとなると、ちょっと多めに飲んでもよさそうだが、先生どうなのでしょう?

「アルコールそのものは、発がん物質とされていますし、一定量以上飲むと正の相関をもって死亡リスクを上げていきます。やはり飲酒量は適量に抑えてください。具体的には、国が定める適量飲酒である純アルコールで20gが目安です[注1]。日本酒でいえば1合、ビールなら中ジョッキ1杯、ワインならグラス2~3杯程度です。ただし、アルコールの強さ(耐性)には個人差もあります、このデータはあくまで観察疫学研究から推定した目安と理解してください」(山田さん)

おつまみのポイントは、たんぱく質と油をしっかりとること

次は、お酒と組み合わせる「おつまみ」。食後高血糖を抑えるためには、具体的にどんなメニューを選べばいいのだろうか。

「食後高血糖を避けるためのポイントは、何と言っても糖質の少ないメニューを選ぶこと、そして鶏肉や豆腐などのたんぱく質を多く含む食品、オリーブオイル、ナッツ、魚に多く含まれるオメガ3[注2]、バターや生クリームなどの良質な油をしっかりとることです。たんぱく質や油を先に摂取しておくと、血糖値の上昇が抑えられます。晩酌時にたんぱく質をしっかりとっておけば、筋肉の合成スピードも上がって、ロコモ[注3]対策にもなりますよ」(山田さん)

[注1]純アルコール量=アルコール度数(%)×0.01 ×お酒の量(mL)×0.8 で計算できる。アルコール度数5%のビールを500mL飲酒するならば、純アルコール量=5×0.01×500×0.8=20g。

[注2]オメガ3とは、n-3系多価不飽和脂肪酸の通称。α-リノレン酸、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などのこと。体にいいと言われる油の一例。

[注3]ロコモティブシンドロームの略。骨、関節、神経、筋肉などに障害が起こり、立つ・歩くなどの日常生活を送る上で重要な機能が低下する状態。

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先生のアドバイス通りに食事を変えてみた結果は……