名称変更も考えた 東京モーターショー大変革の舞台裏
10月24日から開催されている東京モーターショー2019。テレビCMにマツコ・デラックス、ドローンレースアンバサダーに日向坂46、バーチャルナビゲーターとしてバーチャルYouTuberのキズナアイを起用。キッザニア、ガンダム、グルメキングダムと、これまでにないコンテンツも取り入れた「バラエティー化」も話題になっている。目標入場者数は前回77万人を大きく超える100万人。その数字が意味する狙いについて、小沢コージ氏が特別委員会の長田准委員長に話を聞いた。
中国の若者は5分で会場を去った
小沢 正直、ビックリしました。通常の自動車コンテンツに加えて、テレビCMにマツコ・デラックス、ドローンレースアンバサダーが日向坂46で、キッザニアやガンダムまで。今回は逆ギレ気味なまでの気合と意地を感じましたが。
長田 なるほど(笑)。
小沢 率直にお伺いしますが、長田さん自身はいつ頃からモーターショーに危機感を感じてたんですか。08年のリーマン・ショック以降、海外勢は既にガタ減りしてましたが。
長田 極めて個人的な話ですが、僕は以前中国に赴任していました。その時に一度、中国の事業体の若い人を東京モーターショーに連れてきたことがあるんです。そしたら会場に連れてきた瞬間におもしろくないって帰っちゃった。5分で買い物に行きましたよ。
小沢 そりゃショックですね。
長田 極めて屈辱的なものもあり、まずはそこからですね。
小沢 中国の人は新車に興味がないとか?
長田 メチャクチャありますよ。基本的に中国人は日本人に比べてクルマに対する熱量が圧倒的に高い。ただし、中国でやっているショーに比べて、東京はワールドプレミア(世界初出し)が少ない、最新技術もどこもないから見るべきものがない。
輸入車ブランドの少なさは想定外
小沢 日本自動車工業会(自工会)会長の豊田章男トヨタ自動車社長もおっしゃっていましたが、今回は海外からの出展も少ない。輸入車が5ブランドですから。
長田 ここまで少なくなるとは正直思っていませんでした。僕自身も自工会スタッフと一緒に各インポーターを回りましたし。
小沢 営業はちゃんとやられたと。
長田 やりました、やりました。全部回ってお願いをし、今だから言いますがインセンティブのお話もしたんです。しかし、なかなか本国とのバランスが取れなかったみたいで。
小沢 報道では東京モーターショーの出展料が高いなんて話があるじゃないですか。
長田 私の認識としては、それはないです。
小沢 海外ショーには2階建てブースがあり、VIPを囲えたり顧客サービスが可能ですが、日本は安全基準で許されないって話も。
長田 それは単に日本の基準で現在の会場だと難しいというだけの話だと思います。
「モーターショー」の名称変更も検討
小沢 もう1つ、直前のドイツ・フランクフルトモーターショーも日本からはホンダしか出なくて沈み込んだように、モーターショー自体の限界説もあり、価値観の変貌も叫ばれています。長田さんはどうお考えですか。
長田 それはあると思います。既に会場に物を置いて「見てください」ってやるやり方に限界が来ていると思っています。今回出展をお願いした東京オートサロンさんに一番学ばせていただいているのは、来場者や出展者と価値観を共有し、そこに目がけて共に盛り上げていきましょうという姿勢だと思うんです。
小沢 一方的ではなくインタラクティブだと。
長田 あえて自虐的に言うとモーターショーはお客様に対しての上から目線が多いように思いまして、今回それを止めようよっていうのが自工会のコンセプトでした。
小沢 今回、「東京モーターショー」の名前を変えることは考えましたか。例えば「東京モビリティショー」にするとか。
長田 考えました。「モビリティショー」も案にはありました。ただ、結論としてまずはこの名前でいけるところまでいこうと。次回はわかりません。
ディスカッションのネタにしてほしい
小沢 今回の入場者数は目標100万人。相当高いと思うんですが、それは無料エリアも含む?
長田 いえ、有料チケットだけのカウントでいきます。
小沢 それはよりまたハードルが高いような。
長田 コンテンツもそうですが、僕らもメーカーの方々も、未来のモビリティショーなのでぜひ見に来てほしい、一緒に学びディスカッションのネタにしましょうと、関係している多方面のステークホルダーのみなさんにお願いしてます。
小沢 なんでもありとおっしゃってましたが、それでもガンダムに日向坂にドローンとなると、自動車イベントからちょっと外れすぎて無理やりな気もするんですが。
長田 最初はみなさん冷たかったですよ(笑)。こんなことやってなにになるんだ、って。ただ、これは自工会の会議で何度も言いましたが、結局自動車コンテンツだけにこだわるのは、サムライのような発想ではないかと。非常に様式美的で内向き。その結果が前回ショーの入場者数77万人という結果だと僕は思っています。
小沢 自分で自らを縛るような発想ではないかと。
長田 これはまさに自工会会長の豊田のコメントなのですが、入場者数100万人で、もう一回みなさんに「自動車」というものを認知していただけなければ、我々はもうジリ貧になっていくだけですから。いろいろなことをかけ算して、「やっぱり自動車って楽しいよね」って思っていただきたい。特にお子さまたちの世代に。
小沢 これもまた自動車業界100年に1度の大変革のモーターショーなのだと。
長田 そうです。そしてみなさまに触って一緒に考えて楽しんでもらう。それが僕らにとっては一番大切な事だと思っています。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、「ベストカー」「時計Begin」「MonoMax」「夕刊フジ」「週刊プレイボーイ」、不定期で「carview!」「VividCar」などに寄稿。著書に「クルマ界のすごい12人」(新潮新書)「車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本」(宝島社)など。愛車はロールス・ロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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