――デザイン力を強調したのが売れた理由でしょうか。
「時計業界においてシャネルは他社とは違います。売れている理由は明確で、デザイン重視、デザイン最優先だからです。時計業界では複雑な機構を前面に持ってきて、そこからモデルの規格を作っていくのが一般的です。私たちは正反対。技術力よりもクリエーションが最優先です」
■宝飾品の技術をさまざまに応用
――J12のデザインは男性にも受け入れられました。
「時計業界では男性用モデルをベースに女性向け製品をつくるところが多いと思いますが、シャネルでは女性向けにつくった時計が男性にも広がっていきました。J12はデザインがスポーティーでサイズ展開も豊富なことから、男性も着用しやすいのです。とりわけ日本ではレストランや街中で男性がつけているのをよく見ます。J12の成功の要因は何といっても、どこにもなかった洗練されたデザインです。J12のデザインはシャネルのアイコン的存在となり、永遠のデザインとなりました。まだまだ拡大の余地がある、ポテンシャルが高い時計といえるでしょう。いわば、ポルシェの911と同じです。腕時計は量産する工業製品であり、自動車産業と一緒なのです」
――バッグの留め具をモチーフにした「コード ココ」をはじめジュエリーウオッチにも力を入れています。
「ファッション性の高い『コード ココ』は時計としても際だって特別なデザインで、全面をダイヤで覆ったモデルがあります。時計・宝飾品担当としてはこのように宝飾品の技術をさまざまに応用できるのは光栄です。時計とは本来、時刻を表示するツールですから、マーケティングに特化すればこうした時計は生み出されません。シャネルでは時計、宝飾品それぞれのクリエーションスタジオがあり、毎年特別な新しいデザインを生み出しています。また87年に誕生した最初の本格的腕時計『プルミエール』のように、今も通用するデザインの時計がリモデルして復活し、新たな顧客を獲得するケースもあります」
――時計やジュエリーはギフト需要が高いのですが、個人的なギフトのエピソードはありますか。
「私は音楽が大好きなんです。だれかに贈るギフトとして買うことが多いのは、60~70年代のレコード盤です。東京・高円寺にあるレコードショップが大のお気に入りで、60~70年代のビニール盤が世界でもっとも多くそろっています。海外の曲を日本でレコーディングしたものなど、他の国で買えないものを探すのが好き。今回の来日でもちょっとだけ空く時間があれば立ち寄るつもりです。贈る相手がレコードコレクターでなくても、ギフトでは私自身が好きなものをあげたいです」
(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)

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